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闇バイト(3)

「このまま追いかけますか?」

「いや、出て来るのを待とう。海外へ高飛びするつもりであれば、空港に行くための出入り口はここしかない。車を駐車した後、ここから出てくるはずだ」

「わかりました」

 わたしと富永は路肩に捜査車両を停車させると、中から新浜が出てくるのを待っていた。

 もし逮捕状が出る前に海外へ飛ばれてしまうことだけは避けなければならなかった。場合によっては、バンカケをして逮捕状が出るまで時間を稼ぐ必要がある。しかし、あとどのくらいで逮捕状が出るのかはわからなかった。裁判所には組織犯罪対策課の大森と高井が向かっていて、逮捕状が出たらすぐにこちらへ持ってこれるようにしていた。

「それにしても,、予想外なことが起きるものですね」

「ああ、まさか戻ってくるとは思わなかったな」

「でも、何も荷物らしいものは持っていなかったですよね」

「金は持っているだろうから、現地で調達するつもりなんじゃないのか」

「それなんですけれど、ちょっと疑問を感じる点がありまして……」

「なんだ?」

「新浜は指示役から報酬を受け取ったのでしょうか」

「どういうことだ」

「もしかしたら、まだ受け取っていないんじゃないかなーって思って。だから、まだ自宅周辺をウロウロとしていた。そんな気がするんですよ。だってお金もらっていたら、もっと早く高飛びするでしょう、普通」

「確かに、それはあるかもしれないな。じゃあ、いまはなんで羽田に来たんだ?」

「さあ。それは新浜に聞いてみないとわからないですよ」

 そんな会話を富永としばらくしていたが、一向に新浜は姿を現さなかった。

 何かがおかしい。そう思ったわたしは車を降りると、立体駐車場へと向けて歩きはじめた。何がおかしいのかは説明ができなかった。ただ、刑事の勘のようなものが、違和感を感じ取っているのだ。

「おい、高橋」

 慌てて助手席から降りてきた富永が後を追いかけてくる。

 その時だった。何かが空から降ってきた。

 鈍い衝撃音。それはまるで大きな荷物を地面に落としてしまったような音だった。

 ちょうど立体駐車場の下に止めてあった乗用車にその落下物は衝突し、車の防犯装置が鳴り響いた。

「富永さんッ!」

 わたしは走り出した。

 落ちてきたもの。それは新浜ケントだったのだ。

 車の屋根が凹み、フロントガラスが大破するほどの衝撃だった。車の屋根でバウンドしたあとアスファルトの上に落ちた新浜ケントの頭はぱっくりと割れ、大きく割れた額からは大量の血液と脳漿がこぼれ出ていた。

 立体駐車場の四階辺りに人影が見えた。わたしは立体駐車場の中へと入ると、脇にあった非常用の階段を駆け登った。

 わたしが四階についた時には、すでに人影はどこにもなかった。

 一気に階段を駆け上がったせいで、息があがっていた。膝に手をついて呼吸を整える。喉がカラカラで、空咳が何度か出た。辺りに視線を走らせ、防犯カメラの位置を確認して、スマートフォンで富永へと連絡を入れる。

 すると自動車のタイヤが軋むような音が聞こえた。下の道路を覗き込むと、先ほど新浜を乗せていたワンボックスカーが猛スピードで駐車場から出ていくところだった。

 富永は出入り口を塞ぐように立っていたが、その車に撥ねられそうになり、慌てて脇に飛び退いていた。

 やられた。そう思った時には遅かった。いますぐに捜査車両へと戻り、後を追ったとしても、ワンボックスカーに追いつくことは出来ないだろう。しかし、車のナンバーは控えてある。すぐに緊急配備をすれば、捕まえることが可能かもしれない。わたしは急いで、緊急の連絡を上司である織田係長に入れ、車のナンバーを伝えて緊急配備を掛けるようにお願いした。

「くそ、なんでこんなことに」

 捜査車両に戻ると、富永が悔しそうに言った。富永のスーツの膝は先ほど飛び退いたときにアスファルトで擦れたのか、破けてしまっていた。

 わたしたちは捜査車両のトランクから規制線用のテープなどを取り出すと、辺りを封鎖する作業に取り掛かった。

 しばらく作業をしていると、遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 新浜ケントは死んでいた。おそらく即死だったのだろう。頭は完全に潰れてしまっており、いまは服装でそれが新浜ケントであるとしかわからなかった。

 おそらく新浜ケントは逃走したワンボックスカーの運転手に立体駐車場の四階から突き落とされたのだろう。それは、駐車場内に設置されている防犯カメラなどの映像を確認すればわかることだった。

 なぜ新浜ケントは殺されなければならなかったのか。そこがわからなかった。何かトラブルがあった。そうとしか考えられなかった。強盗役は三人組だった。そして、運転手がひとりいるので全部で四人ということになる。先ほど逃げたのが同じ運転手だったという可能性も考えられる。もしかしたら、指示役は運転手なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、連絡を受けたこの地域を管轄する所轄署である東京空港警察署の刑事課と地域課がやって来た。立体駐車場はすぐに封鎖され、防犯カメラの映像の解析が始まる。

 わたしたちは東京空港警察署の人間に状況説明などを行い、あとからやってきた機動捜査隊への説明も行った。すでに緊急配備は行われており、各地で検問がはじまっている。ワンボックスカーがどこかで捕まるのも時間の問題だろうと思われた。


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