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ミドリ(9)

 立ち上がったアオイは仏壇のところにあった線香用の多目的ライターを見つけてタバコに火をつけた。


「結構かわいいでしたよ。アニキ、女の趣味は良かったんだよな」


 笑いながらアオイがいう。

 それを聞いて、わたしは何とも言えない複雑な心境になった。


「アオイさんは、いつから東京に」


 富永はさりげない感じでアオイに尋ねる。


「え、もしかして、俺のアリバイ確認?」


 アオイは富永の質問に困ったなという表情をしながらいう。


「まあ、念のため」

「そうだよね。疑わしきものはすべて調べるのが刑事さんだよね。でも、残念ながら東京に帰ってきたのは昨日の夜です。飛行機のチケットもあるから見せましょうか」

「お願いします」


 富永が堅物刑事のような硬い口調でアオイに言う。

 もしかしたら、富永はアオイみたいなタイプの人間が嫌いなのかもしれない。わたしは、二人のやり取りからそう感じ取っていた。

 チケットを確認したところ、アオイのいうことに偽りはなかった。たしかに飛行機は昨日の夜に東京へ到着する便だった。


「はい、アリバイ成立ね。でも、なんでアニキは殺されちゃったんだろうな。アニキは何か悪いことでもしていましたか。例えば、浮気とか」


 そう言いながらアオイは笑う。

 その発言にどこか引っかかったが、その時は流してしまった。

 話を聞かせてもらったことに礼を述べ、わたしたちは松本家をあとにした。


「俺、あいつ好きになれないな」


 新宿中央署へと戻る捜査車両の中で、富永が言った。

 あいつというのは、松本アオイのことだろう。


「別に好きになる必要はないと思いますけれど」

「まあ、そうだな」


 富永はそれだけいうと、サイドガラスの方へと目を向けてしまった。

 雨が降り出した。最初は弱い雨だったが、新宿に着く頃には本降りとなっていた。


「ちょっと頭の中を整理しませんか」


 信号待ちをしながら、わたしは富永にいった。

 それは、どこかに寄って休憩してから帰りましょうという誘いだった。


「そうだな」


 特に反対する意見はないらしく、富永はわたしの提案に乗った。

 車を止めたのは駅から少し離れたところにあるコーヒーショップの駐車場だった。

 運良く店の入口から一番近い駐車スペースが空いていたため、そこに車を入れると、ビニール傘をさして店内へと向かった。


 昼過ぎということもあって、店内は少し混んでいたが座れないほどでもなかった。

 一番奥の席が空いていたため、わたしたちはそこを選んで腰を下ろした。

 注文は、わたしがホットコーヒーとパンケーキ。富永はホットコーヒーのみだった。

 パンケーキは大皿に乗せられた3枚であり、上にはチョコレートソースと生クリームがかかっている。


「少し食べます?」


 口をつける前に富永に聞いたが、富永は無言で首を横に振ってコーヒーを飲んだ。

 少し食べたところで、わたしは話をはじめた。

 外であるため事件についてわかるような言葉は使わないで話すようにする。


「富永さんは、松本アオイさんについてどう思いましたか」

「どう思ったかって、それはさっき言ったように、俺はあいつを好きにはなれない」


 少しイラついたような口調で富永は言う。


「あ、いえ。個人的な感情の話ではなくて、今回の件との関連についてです」

「え、今回の件との関連?」


 わたしの発言があまりにも意外だったのか、富永は目を丸くして発言をオウム返しに口にした。


「はい。松本アオイさんは、今回の件に関与していると思いますか」

「そういう風に聞いてくるってことは、高橋は関与していると考えているってことだな」

「まあ、まだ確信は持てませんが」


 そう言って少し難しい顔をしたわたしは、コーヒーカップに口をつける。

 コーヒーがなんだかとても苦く感じられた。


「もし、関与しているとして、どんな形で関与していると思うんだ」

「笠井みどりとアオイさんは会ったことがあるんじゃないかと」

「どういうことだ?」

「間にミドリを挟んでいるかどうかはわかりませんけれど、笠井みどりとアオイさんには面識があったように思えてならないんです」

「どうしてだ?」

「わかりません。ただ、そう思っただけです」

「女の勘ってやつか? それじゃあ、捜査報告はできないぞ」


 笑いながら富永がいう。

 確かに富永の言う通りだった。そんなことで事件を解決できるのであれば、警察などはいらないのだ。それは重々承知のことである。


「わかっています。でも、何となくそんな風に感じたんですよ」


 それだけいうと、ナイフで小さく切ったパンケーキを頬張った。

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