第三話 永長沙良①
永長沙良はランドセルを背負う。午後3時半過ぎ。今日も一日が終わった。
「バイバーイ」
「今日、帰ったら一緒に遊ぼ」
教室の中は騒がしい。
「沙良ちゃん。また明日ね」
沙良が教室を出て行こうとすると、上野あずさが声をかけた。
「うん。バイバイ」
そう言って教室を出る。あずさのように普段から仲良くしている友達は何人かいた。それでも、やはり沙良は心が満たされないのだった。
きっと、これから先も李未ほど心を許せる友達は、できないだろう。
李未と出会うまでは幼なじみが友達だった。自分と気の合う友達というよりも、近所に住んでいて、小さい頃から遊んでいたから友達を続けているという感じだった。
沙良はそんな幼なじみとの友達関係にしんどさを覚えていた。そんな時、五年に進級した時のクラス替えで宮本李未と出会ったのだった。
ちょっと大人びていて、沙良が知らなかったアーティストや俳優を教えてくれた李未。沙良にとって李未は、憧れの存在だったし、これからもお互いに一番の友達だと思っていた。
だって、好きな人の話も親に秘密にしていることも、李未とは何でも共有していたから。
でも、ちがった。李未は一学期の終わり夏休みが近づく頃、ここからは遠い街に引っ越して行った。しかも、沙良に引っ越すことを内緒にしていた。
ある日の学級会で、担任の先生が
「急ですが、宮本さんは来週、引っ越します」
と言って初めて知ったのだった。李未の方を見ると、俯いて座っていた。それを見て、沙良は悲しい気持ちと同じくらい怒りの気持ちが湧いた。
――どうして? どうして先に教えてくれなかったの?
でも、一番の友達だから、素直に「寂しいよ」とか「手紙書くね」とか言いたかった。それなのに……
実際、李未に最後に言った言葉は
「もう、友達じゃないから」
だった。
夏休みが終わり、二学期に学校へ行くと、当たり前だけど李未の姿はなかった。李未が使っていた机と椅子さえ教室にはなかった。
まるで、李未がもともとこのクラスにいなかったみたいだ。そう思うと沙良は心細さを感じた。
李未はどうしているのだろう。新しい学校はどんなところなんだろう。きっと、李未なら新しい友達がすぐにできるはず。
――私のことなんて、忘れちゃうんだろうな
自分が最後に言った
『もう、友達じゃないから』
その言葉を思い出し、沙良は胸が苦しくなった。