第二話 佐々木和子 ①
「茉莉奈きれい!」
「ドレスよく似合ってる」
みんなの歓声と拍手を受けて、茉莉奈が入場する。
淡い水色をした、マーメイドラインのウェディングドレスを着た茉莉奈は、確かに綺麗だ。
身長170センチ。すらっとした体型は、別れた夫譲りだ。その恵まれた体型のお陰で茉莉奈は高校生の頃、とある雑誌の読者モデルをしていた。
大学受験を機にそれをきっぱり辞め、難関の国立大学の合格を勝ち取り、卒業後は大手のメーカー勤務をしていた。
そこで知り合った2歳年上の男性社員と、結婚することになったのだった。
そう、茉莉奈は佐々木和子にとって、自慢の娘だ。
夫と離婚したのは、茉莉奈が小学3年生の時だった。夫の浮気が原因だった。相手は同じ会社の部下。しかもお金を貸していた。そのことが発覚した時、和子は怒り狂いながら夫を責めた。
「お前のそういう理屈っぽくて、情がないところが嫌なんだ。うんざりだよ」
その言葉に絶句した。情があれば、何をしてもいいと言うのか。
自分のしたことを棚に上げ、そう言った夫を心底軽蔑すると同時に、この人と一緒にいるのは無理だと思った。そして、離婚した。
慰謝料と茉莉奈の養育費をもらう段取りをつけ、和子は茉莉奈を連れて家を出た。
専業主婦だった和子が、子育てをしながら働くなんて、簡単なことではなかった。ようやく採用されたのは、スーパーのレジのパートだった。
茉莉奈との生活が何とかできていたのは、義理の両親の隠れた援助があったからだ。
夫はどうしようもない奴だったけれど、義理の両親は、よくできた人だった。
「和子さんをこんな目に遭わせて」
「本当に申し訳ない」
くり返しそんな風に言われた。
夫に茉莉奈を会わせたくなかったけれど、義理の両親には茉莉奈を会わせたかった。だから月一回、茉莉奈は父親(義理の両親)の元へ通っていた。
小学生の頃から茉莉奈は、しっかりしていた。
和子がパートから帰ってくるとお茶を淹れてくれたり、中学生になると代わりに食事の用意をしてくれたりした。そんな茉莉奈がいたからこそ、和子は今日まで生きてこられたと思っている。
そして、ようやく茉莉奈が、幸せになる日を迎えたのだった。
とあるレストランでのガーデンパーティー。木々の緑が眩しい中で、茉莉奈の笑顔も輝いて見える。