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檀野蓉子 ②

 朝の片付けを済ませると蓉子は買い物に出かけた。食材の買い出しは週二回。ネットスーパーもあるけれど、雨でも暑い夏でも蓉子は歩いて買い物に出かける。

 一時でも家を離れると、息がしやすくなるのだ。

 ずっと家にいると、嫌でも樹のことを考えてしまう。幸い家庭内暴力はないけれど、いつか樹が豹変して、自分や夫を殺したりしないだろうか……という不安に駆られる。

 考えても答えの出ないことだ。いつも自分にそう言い聞かせている。


 スーパーの前にある交差点で信号に引っかかった。そのことに蓉子は安堵する。家に帰る時間が少し遅くなる。それが嬉しいのだった。

 信号待ちをしながら、ある看板が店先に出ているのに気づく。何となく気になりそれに近づく。そこには


――メモリアル トラベラー あなたの後悔を癒します


 と書いてあった。

 メモリアルトラベラーは蓉子も知っていた。最近やたらと情報番組で取り上げられている。「心の傷を癒す一つの有効な手段」と賛成派もいれば、「嘘くさい。信用できない」と反対派もいる。

 自分には関係ないと思っていたから、蓉子は賛成派でも反対派でもなかった。

 その看板から蓉子は目が離せなかった。呼ばれているような気さえする……


 気が着くと蓉子は看板の奥にあったドアを開けていた。


「こんにちは」


 落ち着いた優しい声に迎え入れられた。蓉子は声がする方に顔を向けた。そこには、こざっぱりとした青年が立っていた。年恰好は樹と同じくらいだ。


「あの……」


 蓉子は戸惑いつつ声を発した。青年は「こちらにどうぞ」と、店の真ん中にある若草色のソファーを勧める。


「初めてご来店ですね」


 青年は優しく微笑みかけた。


「メモリアルトラベラーって効果あるんでしょうか」


 そう質問してから、蓉子は失礼なことを言ってしまったと思う。でも、青年は気を悪くすることなく説明してくれた。


「効果はある場合とない場合があります。ですので、僕自身もお客様がメモリアルトラベラー術を受けてよかったのかどうか判断できません。全てお客様次第です」


 きっぱりと言い切る姿勢に信頼感が持てた蓉子は、意を決して言った。


「メモリアルトラベラー、お願いします。」

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