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警備員

作者: 宮嶋 健吾

 警備員はモニターを見つめながらカップ麺をすすっていた。モニターの中の少年は全く動く気配はない。用意されたベッドにも横にならずただじっと鉄製の椅子に座っているだけだ。もし少年が暴れようとしたり何か不穏な行動を示したらすぐにこの警備員が報告することになっている。警備員の右側に据えられたマイクに向かって報告するのだ。もう十日になるが特に動きがない。モニターを眺めながらこんな狭い部屋でただ椅子に座り提供された飯を食って、時間になればいくつか質問に答えるだけの時間を過ごすのはつらいと男は思った。その少年に同情するのと同時に自分自身についても考えていた。その特に変化のない少年を見続けている自分とはいったい何者なのだろう。ここ十日何も進展がない。ただ、時折来る保護管に「問題ありません」というだけなのだ。目の前の少年よりも自分のほうが狂気に満ちているようにも思えてきたのだった。そういう時は男はまん丸い地球を想像する。そうしてその地球を俯瞰して眺め、その地球の中にいる自分はいかにちっぽけな存在なのだろうかと言い聞かせるのだ。十日なんて大した日数じゃないと。そして、その男をさらに見守る男がいた。


 警備員はモニターの中でカップ麺をすすっている。その警備員が不穏な動きを見せないか確認するため男はモニターを覗いている。トイレに立つ以外は何も問題はない。男の手元には警備員がトイレに行った時刻が記されている。四日目にトイレに立つ回数が多く見られたが、その日は飲み物のペットボトルをいつもより一本多く買っていたのが原因だろうとみている。いつもはお茶だけだがコーラも買っていた。ただ味を変えたかっただけと判断した。この男は少年を見守る警備員とは違う会社に所属している。この男は警備会社が滞りなく業務を終えることを保証するための会社なのだ。ふと男にある考えが浮かぶ。自分を監視し滞りなく業務を遂行しているかを確認する会社はないのかということだ。そうしてその自分を監視する人を監視する人。自分を監視する人を監視する人を監視する人は?そう考え始め収集がつかなくなると男は海を頭の中に思い浮かべるようにしている。目の前に広がる広大な海。海の向こうに陸は見えない。そうしてこの深い海にはまだ発見されていないものや誰も知らない世界がきっとあるのだと考えるのだ。そう思うと男は不思議と安心するのであった。男の目の前のモニターの中で依然としてカップ麺をすする警備員。それを見ていると不思議と腹が減ってくる。しかし、男はそのまま動くことはない。こういう時こそ何か問題が発生する可能性があるのだ。そうして警備員は無事カップ麺を食べ終え、カップをゴミ箱に捨てた。


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