謎が謎をよぶ怪文書
"Tá mé ag súil le bualadh le mo mháistir ar oíche na gealaí seo chugainn. Is léir dom le déanaí go ndéanann gach comharsan dearmad ar threoir Mhór Ríoghna na Mumhan, agus níl aon dabht ach go mbeidh athrú sa domhan gan mhoill mar thoradh ar na béimíochtaí sin. Is arna bhríocht ag an Ríognach agus ag ceannaireacht Bhreandáin a thugtar an ghlóir seo. An bhfuil gach rud réidh le haghaidh an áirithigh? Ní mór go mbíonn an searmanas foirfe."
(なんだこれは!?)
まったく知らない単語ばかりの、意味不明な文章だった。
職業柄、彼には暗号解読の知識もある。
だがそれでも目の前の手紙がまったく読めない。
生まれてはじめて見る未知の言語だった。
ここにこうしてあるからには、神父はこの手紙が読めるのだろう。
暗号解読に必要な解読表のようなものは見当たらない。
ということは解読方法を暗記しているか、あるいはこのままで読める言語ということになるのだが。
(あの神父、いったい何者なのだ……?)
エリオットは懐から筆記用具を取り出し、書き写す準備をはじめた。
この特級不審物を無視も出来ないし、かといって持ち帰るのも不都合が多かろう。
だから書き写す。
すぐ解読できるような代物ではない。騎士団情報部へ持ち帰って専門家に協力をあおぐこととなるだろう。
彼が愛用のペンをかまえて、さあ一文字目……というその時だった。
となりの部屋で寝ているアンナマリーが、おかしな寝言を叫びながらベッドから転げ落ちた。
「マジカル・ミルキー・スパイラァル・イリュージョ~」
ドッタアアン!!
静かな深夜にはあまりにも大きすぎる物音だった。
エリオットは思わず手を止め、壁のむこうを睨みながら顔をしかめる。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
アンナマリーのたてた大音を聞きつけて、誰かの足音が近づいてきた。
おそらく神父だ。
(まずい!)
エリオットは大急ぎで室内を片付け、神父の私室から飛び出す。
コツ、コツ、コツ、コツ。
足音はもうすぐそこまで迫っていた。いま出ていけば鉢合わせしてしまう。
仕方なく、まだ中を確認してもいない一番奥の部屋に身を潜ませることにした。
しかしこれでは袋の鼠だ。
(冗談じゃないぞ、こんなバカバカしい理由で追いつめられるなんて!)
ドアの裏側で息を殺すエリオット。
足音が廊下の入り口にたどり着いた。
「まったく、なんて寝相の悪い娘だ」
やはりブラナ神父の声。
神父はアンナマリーの部屋に入っていき、転げ落ちた彼女の心配をする。
「ケガはありませんか、アンナマリー」
「あふぇ~? エリーゼ様はぁ~?」
「夢でも見ていたのでしょう」
「ええ~?」
「さあ眠りなさい」
ゴソゴソと物音が聞こえる。
エリオットの脳裏に、幼女が父親に寝かしつけられている光景が浮かんだ。
実際似たような状況だろう。
(そのまま気づかず地下に戻ってくれ)
心の中で祈る。
じっとしているとようやく精神が落ち着いてきて、周囲をうかがうゆとりが生まれた。
運まかせで飛び込んだこの部屋は、どうやらキッチン&食糧庫だったようだ。
食料が収まっているであろう木箱があり、作業台があり、竈があり、水瓶があり――そして、勝手口があった。
(出口だ!)
地獄の底に光がさしたような心地だった。
急ぎたくなる意識をグッとこらえ、ゆっくりと出口に進む。
こんなシーンでナベやフライパンを蹴っ飛ばすような、そんな間抜けではない。
しっかり周囲の確認をしながら、ゆっくり慎重に。
廊下ではまだ神父の足音が聞こえる。
地下へ戻るのではなく、いったん自分の部屋へ戻るようだ。
エリオットのほうは出口まであと数歩の距離。
彼はドアノブにそっと手をのばす――。
「誰かいるのか」
となりの部屋にいるブラナ神父が、急に厳しい声を出した。
そして素早い動きでクローゼットやベッドの下などを探る物音が鳴りはじめる。
(あっ、しまった!)
エリオットはうっかりやらかした自分のミスを、今さら思いだした。
カーテンが開けっぱなしだったのだ。
そのせいで侵入者の存在に気づかれてしまった。
暗い中で片づけをしては忘れ物をしかねない。だから最後にカーテンを閉めるつもりだったのが、焦りのあまり閉め忘れてしまった。
バン!
となりのドアが荒っぽく開かれた。
そして足音が真っ直ぐキッチンにむかってくる!
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