幕間
(貴族の家ってどうしてこうもムダに広々としているのかしら)
カリーン・ドゥーヴは宵闇の中ふとどうでも良いことを考えた。
寝心地は非常に良いが不自然なほど巨大なベッドの上。
美しい裸体をほうり投げるように寝ころんでいた。
荒々しいだけでつまらない愛撫をうけた後、彼女は用済みの玩具としてベッドの上に放置されている。
(大きくしないと小さく見られるから? 見栄をはらないと貴族って死んでしまうのかしら?)
首だけ横にむけると、そこでは部屋の主がベッドの縁に座って葉巻を吸っていた。
シルクのガウンを羽織る中年男。
それなりに整った顔をしており、なんとこの国で2番目に偉い。
高貴な血筋に生まれ、高貴な身分にあり、容姿もすぐれ、おそろしく巨大な屋敷に住んでいる。
しかしSEXはヘタだ。
(この男って、国王の予備という価値しかないのかもね)
つまらない夜の供をさせられた代償として、男、つまりアルフレド・ドルトネイ公爵は情け容赦のない評価をつけられていた。
「……例の件はどうなっている」
ドルトネイ公爵は紫煙を吐きながらカリーンに問うた。
「どのことでございましょう?」
「あれだ、お前の仲間の、ブラナとかいう司祭がむかった連中の話だ」
「ああ……」
『福音の烏』グゥィノッグ・ブラナ。
どこかの田舎町で負けて逃げてきた彼は、身を隠す意味もあって今は『妖精の国』で外交工作をおこなっている。
「妖精族の長老たちはみな頑迷な保守主義者たち。
彼らを決起させるにはまだ時間がかかりましょう」
「急がせろ。悠長に構えているほど私は気の長い男ではない」
(財布が死んで金庫の中身が寂しくなってきた、の間違いでしょ?)
カリーンは闇の中で冷たい視線をおくる。
この男は自分が無駄使いの天才だということを理解していない。
贅の限りを尽くしたこの巨大な屋敷。
たんに巨大なだけではなく、建材や装飾にも最上級のものばかりそろえて建てさせた『住む財宝』と呼べそうな建築物である。
当然アホみたいな巨額が投じられている。
資金はもちろん今は亡きマルカム準男爵と、公爵領にすむ善良な市民たちの血税だ。
公のために使うべき税金を自分個人のために使い切り、それでも足りずにマルカムから不正な金を受け取ってきたこの男。
マルカムという便利な財布を失ったこのバカ公爵がつぎに欲しがっている財布は、グレイスタン王国の国庫だった。
こんなバカが王になれば、あっという間にこのグレイスタン王国は経済破綻するだろう。
それこそがカリーンたちがドルトネイに協力する理由だった。
「急いては事を仕損じますわ。
ご安心くださいませ。御身はこのカリーンがお守りいたします」
そうささやきながら、そっと公爵の背中に身をよせる。
(あんたがこの国を滅ぼすまではね)
と心の中でつぶやきながら。
「カリーン!」
公爵はガバっとふり返ると、そのまま彼女を押し倒した。
休憩時間は終わりらしい。
不用心にも火のついたままの葉巻を絨毯の上にほうり投げ、ベッドの上でカリーンの唇を吸ってくる。
「こ、公爵様、葉巻を」
「よい、お前を求める熱き想いにくらべれば温いものよ!」
「いえ危のうございます、あの……」
「だまっていろ!」
話を聞きやしない。
発情期の獣でももうちょっとマシではなかろうか。
(火事になったらどうするのよ、バカ!)
カリーンはしかたなく下手くそな愛撫をうけながら魔術を使い、自身の影を動かした。
ブワッ! と彼女の影がうごめき、一個の鉄槌となる。
一瞬、これで公爵の頭を砕いてやろうかとも思ったが、そうもいかない。
鉄槌はベッドの下へスルスルと動いてゆき、はやくも絨毯を焦がしはじめていた葉巻をていねいに揉み消した。




