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神父とシスターと危険な香り

(はて、なんの臭いだったか……?)


 すぐには思いだせそうにない。

 脳内は高速で検索中であったが、表情は完璧な笑顔に戻っていた。

 同時に二つや三つの情報処理ができないと、スパイ活動はこなせない。


「あなたはこちらの教会のかたね?」

「はわわ……」

 

 シスターはオロオロするばかりでまともにしゃべれない。


「わたくしはエリーゼともうします。あなたは何とおっしゃるの?」

「はわわ……」


「この教会の神父様にもご挨拶あいさつしたいわ。どちらにいらっしゃるのかしら?」

「はわわ……」


「……」

「はわわ……」


(……おいおい会話にならないぞ。どうなっているんだ)


 彼女はポッと顔を赤らめたまま、エリーゼの美貌びぼうに夢中である。

 さすがにちょっと異常なように思えた。


「……これはどうしようかしら」

「はわわ……」


 エリーゼは困惑顔で同僚のオスカーを見やる。

 オスカーのほうもどうにもならないといった顔で肩をすくめてしまう。

 そんな時だ。

 場が膠着こうちゃくするのを待っていたかのようなタイミングで、奥から他の人物がやってきた。


「おや、お客様ですかアンナマリー。

 何かあったら私を呼んでくださいと言ってあるでしょう」

「あっはい! すいません神父様!」


 姿を見せたのはおだやかな雰囲気ふんいきの神父だった。

 長身痩躯(そうく)

 オールバックの黒髪、顔には丸眼鏡。

 特徴が無いのが特徴といった印象の男性だ。


「ご挨拶あいさつが遅れました、グゥィノッグ・ブラナと申します。

 当教会を預からせていただいております」


 胸に手を当て、上品に一礼するブラナ神父。

 エリーゼとオスカーも返礼する。


「ご丁寧なご挨拶いたみいりますわ。

 エリーゼ・ファルセットと申します」


 スカートのすそをつまみながら頭を下げたエリーゼは、神父の身体からも妙な臭いをぎ取った。


(またか、これは何なんだ一体)


 疑問に思いながらも、顔を上げた時には笑顔に戻っている。


「とっても素敵な教会ですね。うっとりしてしまいます」


 エリーゼはステンドグラスにいろどられた神像を手のひらで指し示した。


「ありがとうございます。領主様のご厚意によって3年ほど前に改築がなされたばかりなのですよ」

「まあ、そうでしたの!」


 美しく晴れやかなエリーゼの笑顔。

 胸の前で左右の指を組んで、あざといポーズを見せたりもする。

 しかしその奥では頭脳が高速で情報を処理していた。


 この地の領主はレジナルド・フォーテスキュー子爵。

 50歳すぎの、特にどうという特徴とくちょうもない凡庸ぼんような貴族だったはずだ。

 こんな大きな教会を建てる資金など、どこから手にいれたのだろう。

 まして自身が住む都市部ではなくこんな辺鄙へんぴ田舎いなかまちに建てるなど、不可解すぎる。

 一体どういうつもりなのだ?

 領主であるフォーテスキュー子爵もまた悪魔崇拝者サタニストだと断定してしまって良いのか?


 疑惑は一層に深まった。

 だがストレートにこんなことを聞くわけにはいかない。

 表面上はあくまでもなにも知らない小娘のふりをして、ただこの教会が美しくて立派なことを楽しまなくてはいけない。


「わたくし、もっとこの教会を見学させていただきたいわ!

 オスカー、あとのことはよろしくね!」


 エリーゼは一方的にそう宣言するとアンナマリーとかいうシスターの手を取って強引に歩きはじめてしまった。

 わがままなお嬢様として振る舞っていると、こういう強引な手を使ってもけっこう誤魔化せることが多い。


「は、はわっ!?」


 アンナマリーのほうもビックリしてはいるものの、顔を赤らめて満更まんざらでもない様子。

 相手が抵抗しないのを良い事に、エリーゼはまんまと教会施設をくわしく観察する権利を得てしまった。


 後ろの方で、


「申しわけありません、あの通りのお嬢様でして……」


 などというオスカーの声がする。

 謝罪しながら多めの寄付きふ金を渡していることだろう。

 よほどのことがない限りそれで神父はうるさく追及ついきゅうしてこないはずだ。

 一方が強引に行動し、もう一方がひかえめな態度を見せる。

 それでなんとなく丸く収めてしまう、いつもの手口(・・・・・・)だった。

読んでくださってありがとうございます。

投稿のはげみになりますのでぜひ☆とブックマークをよろしくお願いします!

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