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女装の達人 ~姫騎士エリオットの㊙報告書~  作者: 卯月
魔法大戦

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『白砂』はじっくりと待つ

 妖精郷に住む妖精たちにとって、今回の戦争は一体なんだったのだろうか。

 大きな夢を見て挑戦した者たちはほとんどすべてがこの世を去り、生きのびた者たちも今後の人生はつらいものとなるだろう。

 グレイスタン王国にたいし比較的友好的だった『蒼天』『黒曜』『緋炎』の三氏族も利益と呼べるようなものは得ておらず、今後の外交貿易などに期待といったところ。

 明確に敵対してしまった『黄金』と『緑翆』はそれぞれ別の方向性で悲惨なことになった。


『黄金』の氏族はもっとも多くの人材を出兵させ、しかもその人数を全滅させてしまった。

 多くの若い働き手をうしなって『黄金』の氏族は誰もが苦しみあえいでいる。

 その苦しみは出兵を決断した族長ゴルドへのうらみとなって、氏族全体がきなくさ雰囲気ふんいきとなっている。

 恨みの念はおそろしく深く強い。

 なにせ死んだ若者たちというのは我が子であったり、友人であったり、恋人であったりしたのだから。

 もしかするとゴルドがだれかに暗殺されてしまう未来、なんて事もあり得るかもしれない。


『緑翆』は族長デアドラだけが重傷を負うという、けっこうめずらしい状況だ。

 すでに高齢であったため回復に時間がかかっているが、しかしそう遠くない未来に火傷やけどえるだろう。

 だが、デアドラにとって思わぬ誤算、思わぬ悲劇が現在進行形で発生している。

 原因はデアドラが殺そうとした人間が、エリオットとシャーロットだったことだ。

 デアドラが恩師おんしとして敬愛する『蒼天』の族長エレオノーラ。彼女が親戚の子二人を殺されかけた(というかエリオットは一回死んだ)ことに、静かに怒っていた。

 火傷で寝込んでいるデアドラはまだその事実を知らない。

 恩師を怒らせてしまった彼女の不幸は、これからはじまるのだ……。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 そして早々に考えをあらためて、グレイスタンへの出兵を回避した『白砂』。

『白砂』の氏族はたった一人、族長の命令を無視して戦争に参加したロッドのみが犠牲ぎせいになった。

 ロッドは優秀な若者だった。

 だがそれだけに自信過剰じしんかじょうだったようだ。

 たしかに人間は弱い。だが弱さをおぎなおうとするしぶとさ(・・・・)がある。

 ロッドはそれを甘く見たらしい。


「ご苦労であった」


『白砂』の族長ガリウスはどうにか生きのびた偵察員からの報告を聞き、短くそう告げた。


「ロッドを一騎打ちで討ち取るか……あのような子供がな……」


 青き巨人ガリウスは目を閉じてエリオットと名乗る少年の姿を思い浮かべる。

 なにやら妙なスープを作ってよこした、一見どうということのない少年だった。

 あんな子供が。背後に『蒼天』のエレオノーラの支援があったにしても。

 栄光ある自分たち『白砂』の若者を討ち倒したとは。

 まことにけしからん事態であった。


「許せぬな。いずれむくいを受けさせなければいかぬ」


 冷厳な族長の発言に、『白砂』の妖精たちはすわ開戦かと身を乗り出す。


「族長、ご命令を! たかが小僧一人の首、すぐにでもって来ましょうぞ!」


 軽く「うむ」とでも言えばすぐ飛び出していきそうな戦士たちをおさえ、ガリウスは正反対のことを命じた。


「あわてるな。まず百年は待つ」

「百年!? かたきをうつのではないのですか!?」


 目を大きく見開いておどろく戦士たち。

 ガリウスはまったく動じることなく語る。


「許せぬのは『蒼天』の小僧一人。しかし小僧の周囲には人間の群れがいる。この群れが死に絶えるのを待つのだ」


 人の命は短い。今いる経験豊富な兵たちもそのうち居なくなる。

 だからすっかり入れ替わって弱体化するまで待ったほうが得だ。

 そういう判断だった。


「し、しかし族長、百年待った先でも強い兵がいたらなんといたします」

「その時はさらに百年待てばいい」


 あきれるほど簡潔にガリウスは答えた。


肝心かんじんなのは『白砂』全体の繁栄はんえい平穏へいおん。それを忘れてはならぬ。

 我々は我々の都合のよい時に都合のよい行動を選べばよいのだ。

 軽挙妄動けいきょもうどうこそもっともつつしむべきなのだ。

 さもなくば我らも『黄金』のように苦しむこととなろう」


 戦士たちはウームと下をむいてうなるしかなかった。

『黄金』が頑張りすぎて大損害をだしたのは彼らも知っている。

 いまグレイスタン王国は実戦経験豊富な兵たちを多くかかえている。

 そんな連中と戦うのは得策ではない。

 頭を冷やして考えてみれば、まったくその通りだった。

 人の命は数十年。妖精族はその十倍以上の時を当たり前のように生きる。

 相手の短い命に合わせてやる必要はまったく無いのだ。


 結局、表面的にはなにもしないということで『白砂』の戦略会議はまくをおろした。

 百年後、はたしてどうなるのか。

 見上げるような大巨人の群れがグレイスタン王国を蹂躙じゅうりんする。そんな展開が待ち受けているのか。

 それは未来になってみないと分からない。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 さて『白砂』の動向などなにも知らないエリオットたちはグレイスタン王国に帰還した。

 ひと通りやるべきことを終えたいま、残っているのは最後のビッグイベントだけ。

 国王ヴィクトル二世と『蒼天』の妖精エレンシアの結婚式である。

次回、最終回(の予定)です。どうか最後までお付き合いお願いいたします。

m(_ _)m

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