新魔法『分身《ダブル》』
人が燃えている。
青白く輝くような、鮮やかに映える炎。
燃やしたのも人だ。
火をつけた男の冷酷な笑みが、自身の鮮やかな炎によって際立っていた。
熱にして冷。
美麗にして残虐。
突然の出来事にエリオットは一瞬頭の中が混乱する。
しかし一瞬だけだ。
すぐ頭を切り替え、この刺客への対応を開始した。
愛用のレイピアを抜き、同時に魔法を発動させる。
そして今なお燃え盛る青い炎にむかって突進した。
「ハーッ!」
斬りかかるエリオット。
だが刺客は余裕の笑みを崩さず、燃え盛る死体を投げつけてくる。
「そらっ、返すぞ」
たまらずエリオットは横へかわして、攻撃は中断させられてしまう。
「残念だな少年」
エリオットもまた青い炎によって炎上した。
「フッ、フフッ」
ほくそ笑む刺客。
だがそこに、二人目のエリオットが襲いかかった。
「なに!?」
ようやくニヤけた笑みを崩した男。
エリオットは男の心臓を狙って突く。
男は自分の左手を盾にして受け止め、そして強引に受け流した。
「グオオオッ!」
痛みにうめく男にむかってエリオットは追撃の蹴り。
これはまともに命中し、男は入り口から外へ蹴り出された。
「やったか!?」
「まだだ!」
エリオットは否定し外へ飛び出す。
果たして誰の声だったか。リリスカの声だったようにも思うが、違ったかもしれない。
ともかく誰かの声に「まだ終わっていない」と告げ、男を追う。
ちなみにいま使ったのは『分身』という新魔法だ。
殺された一人目のエリオットは魔法で作ったニセモノ。
二人目が本物だったのだ。
使ってみた印象はかなり良い。今後もなにかと役立ってくれそうだ。
外へ出る。
刺客は背を見せて逃げようとしていた。
無言のまま雷撃をはなつ。
待て、なんて声をかけたりしない、容赦なく背中を撃つ。
しかし相手も追撃は用心していたらしく、上着を脱ぎすてて盾にし雷撃を防いだ。
服は雷撃をうけて炎上する。本人は無事だ。
かなりの使い手だった。
一瞬で即死レベルの炎を生み出す魔力。
ためらいなく片手を犠牲にして致命傷をさけた決断力もすごい。
致命傷を受けるくらいなら他を捨てる。理屈では分かっていてもいざその瞬間になかなか実践できることではない。
ピューイ!!
男は指を口に当て、口笛を吹いた。
するとあらかじめ待機させていたらしい巨大な鷹が大空から急降下してくる。
鷹は刺客を足でつかむと一瞬で大空に帰っていく。
「待て! 名を名乗れ卑怯者!」
「すぐにわかるさ『蒼天』の小僧! お前は我々の敵だ!」
それだけ言うと刺客は空の彼方へ去ってしまう。
我々ということは組織ぐるみの犯罪ということだ。
エリオット個人をねらう組織というと、いくつか心当たりがある。
だが『緋炎』の元族長エイフェとは何の因縁もない。
会ったこともないし手紙のやり取りもない、完全に他人だ。
なら元族長のエイフェさんとやらの身内に他の組織の個人、あるいは集団が入りこんでいる事になるのではないか。
どうやら裏でこそこそ暗躍している悪い奴らがいるようだ。




