どこまでも煩わしい奴
「バカな!」
『黄金』の氏族の一人、エルドが叫んだ。
「貴様はたしかに死んだはずだ、何度も確認したんだ!」
「はい、たしかに死んでいましたよ。
たまたま運がよかったといいますか、なんといいますか。
こちらとしても困惑しております」
あまりのことに戦いの手をゆるめて会話をしてしまうエルドだった。
彼に向きあうエリーゼやリリスカにとってもいささか混乱しているのは同じだ。
死体を再利用して生体を作り出す。
エレンシアの無邪気な発案は、つまりそういう狂気的魔法実験だった。
もちろん普通にできることではない。
様々な経験と努力、そして強運がもたらした奇跡だった。
一番大きい要素はやはり『蒼天』の族長エレオノーラから変身魔法の奥義を伝授されていたことだろう。
おのれの肉体を霧に変え、そこからさらにドラゴンやフェニックスに変化して見せたエレオノーラ。
今のエリオットにそんな凄まじいことはできないが、女装した姿『エリーゼ』にならばなれる。
何年も前から女装してスパイ活動をやってきた副産物だ。
『エリオット』が素のままの自分だとすれば『エリーゼ』は自分に手を加えて作る姿である。
妙な話だがエリオットは『作れない』がエリーゼなら『作れる』のだ。
特殊メイクと変身魔法には技術的な面で共通する部分があった。
エリオットの特殊な人生経験が魔法にも生かされたのである。
だからエリオットの死体と死体に残っていた魔力を再利用する形で、エリーゼの生体を再構築することができた。
「まあとにかく生き返ったということでお見知りおきくださいませ」
「どこまでも煩わしい奴!
どれだけ我々の妨害をすれば気がすむんだ貴様!」
エルドはとうとう怒りだして剣を振ってきた。
もともと敵同士である。慣れ合うような関係ではない。
エリーゼは油断なく後方へ跳んで彼の攻撃をかわす。
後方へ跳んだそこにはリリスカとエレンシアが待っていた。
「……とはいえ、残りの魔力はせいぜい三割くらいなんです」
エリーゼはこそっと仲間二人にささやいた。
「ならやはり逃げるしかないな」
「はい。二人はちょっとここで身を守ることに専念していてください」
「えっ? お前まさか一人で戦うつもりか?」
エリーゼは自信たっぷりにニコリと笑った。
「はい。今のわたくし、けっこう強いんですよ?」
正気をうたがうような味方の判断と奇跡的な偶然によって、エリーゼは新たな力を手にいれた。
さっそくその力が試される。




