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女装の達人 ~姫騎士エリオットの㊙報告書~  作者: 卯月
謎の美少女エリーゼ

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出撃準備

 ウィンターブルームの町を出て約一時間後。

 車内のオスカーが運転しているデニスに声をかけた。


「デニス、私はこのあたりで降りよう」

「あいよー」


 馬車を止めさせ、本当に降りてしまう。

 そして街道から百歩ほど離れた場所にある木々の一つに目をつけると、スルスルと上に登っていった。

 彼はこれからあの場所に張り込み、レジナルド・フォーテスキュー子爵とその一団が到着とうちゃくする様子を確認する役目だ。





 馬車を走らせることさらに一時間ほど。

 今度ははるか王都へとつながる主街道をはずれ、細くてろくに整備もされていない横道へと入っていった。


 ガタガタガタ、ゴットン!


 車輪が小石でもんだのか、馬車が大きく跳ね上がる。

 あやうく転倒しかけた。


「デニス気を付けてくれ! こいつであの二人を王都まで運ばなきゃいけないんだぞ!」

「わかってるけどよ! でもこうも道が悪くっちゃあ……!」


 男二人、くち喧嘩げんかをしながら馬車で悪路あくろを進んでいく。

 なぜこんな道を使っているかというと、昨日薬師(くすし)の老婆に教えてもらった抜け道だからだ。

 ガッタンゴットンとれる馬車に乗りつづけ、太陽が天頂にとどく前くらいにはエレノア婆さんの家に到着した。

 昨日来た道とは別の方角からである。

 この回り道によって、街の人々は『エリーゼたちはもう帰った』と思いこむはずだ。


「ああ、来たね」


 老婆はキッチンに立ち、なにやらなべで煮込んでいた。

 薬師の老女がそういう真似をすると、魔法の薬でも作っているかのような絵面えづらになる。


「お薬でも作っていたの?」

「やだね、昼食だよ」


 やがて皿に盛られてきたのは、川魚と山菜の煮物だった。


「あんたらも食べな。せいがつく香草を入れてある」


 なるほど地味な煮物の皿からは、強烈だが不思議と魅力的な香りがする。

 運が悪ければ次の食事はずっと先のことになるだろう。 

 この場はありがたく昼食を御馳走ごちそうになることとした。


 



 食事があらかた終わったところで、エレノア婆さんが不安げに聞いてくる。


「大丈夫なんだろうね」

「ええ、たぶん」


 いい加減な返事をするエリーゼを、老婆はにらんだ。


「頼りないねえ」

「戦争とは結構運まかせなものですよ」


 エレノア婆さんの話によるとレジナルド・フォーテスキュー子爵はいつも十人程度の護衛を連れてくるらしい。

 正規の軍人であるエリオットたち三人ならば、未熟な私設軍隊十人くらいどうとでもなる。

 だが運悪く今回だけなぜか数倍も連れてきてしまった、とかだと話は変わる。

 そうなると重要人物たちに近づくこともできず、逃げるのが精いっぱいだろう。


 他の運要素として貴族の気まぐれということもある。

 今日は早く帰りたいからさっさと今すぐ殺してしまおう、などと現場で子爵が言いだしたらどうにも助けようがない。

 

 逆に急な大雨で延期えんき、みたいなことになればしめたものだ。

 アンナマリーを助け出す機会が増えて仕事が楽になる。


 こういう色々な展開がけっこう有るから世の中は怖いのだ。

 結局は人事じんじくして天命を待つのみ。

 イレギュラーな出来事には、その場その場で対応していくしかない。





 しばらくそのまま過ごしていると、見張り役のオスカーが息を切らせてやって来た。


「予定通りだ! 上等な馬車が一台と、軽装備の騎兵が十騎! ウィンターブルームの町に入った!」

「よし!」


 うっかり、エリーゼの口から低い声が飛び出した。

 すでにおさえようとしても抑えきれない戦意が小さな身体の中で燃えはじめている。


 三人は老婆をアドバイザーとして参加させ、作戦の最終確認をおこなった。

 日暮れまであと数時間。

 残されたわずかな時を、皆は仮眠かみんして過ごす。

 次の休憩きゅうけいをとれるのがいつになるかわからない。

 最悪の場合、数日間はまともに眠れないかもしれないのだ。

 ほんのわずかな時間だが重要な休息だった。


 そして予定の時間になり、エリーゼたちは目を覚ます。

 身体が不思議と軽い。

 エレノア婆さんの香草入り料理が効いてくれたようだ。

 おかげで良い仕事ができそうな気配。


「さあ、行きましょう!」


 馬車の床下に隠していた武器を取り出し、三人は出撃した。

読んでくださってありがとうございます。

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