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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】僕達は自由を求めて過去に行く

作者: ぴー

この子の名前は反乱軍として勇敢に戦った曾お祖父様に因んでケンタと名づけましょう!


誰にも縛られることのない、自由で希望に満ちた世界に、きっと変えてくれる。

希望の子よ…


       ※ ※


ここはAIが支配する都市、"ファーストシティ"。

都市部の中心にあるアカデミー(※大学兼研究所)と呼ばれる施設には、ビッグイーストアカデミアと呼ばれるこの国一番のエリート集団がいた。


現代から遠いのか、近いのかはわからないが、未来のお話である。





「もう少し、もう少しだ!ここを接続すれば……よし、取り敢えず設計図通りに組み立ては完了した。あとは起動確認だが…」

メカニックゴーグルを外し、流れる汗を汚れた袖で拭きながらケンタは言う。


「無謀と言われたタイムマシンだが、俺たちがついに成し遂げたんだな!」

大きなフタが閉じられ、ハンドルをロックしながらジョージは言う。


「これが成功すれば、ちゃんと自由な世の中になるのかな…」

ホログラムに膨大な数字が映し出され、驚くような早さで処理しながらアンが言う。


「その特性上テストすることはできない。一か八かだ。いいな」


ケンタの言葉に二人は固唾を飲んだ。


「そうね。膨大なエネルギーを使うから、起動確認は慎重に行わなければならないわ。監視AIに見つからないように…」


「ああ、ここまで苦労したんだ。チャンスを棒に振れるかよ。もし反乱分子と看做されたら、アンドロイドポリスに消されちまう。」


「ジョージ、アン、ここからは一層気を引き締めて慎重に行こう。過去に戻ってマザーブレイン抹消計画を遂行する。」



"ファーストシティ"の中枢にあるマザーブレインと呼ばれるAIが、この町を支配している。

この支配は個が許されない。

自由も思想も許されない。

マザーブレインの審判により、不要な外出は禁止され、住む場所も学ぶ場までもが指定され、食事は配給されたもの以外口にすることはできないし、皆同じ服を着た。



「要するに、ケンタの曾祖父ちゃんがいた時代に戻って、反乱軍と共にマザーブレインを完成前に破壊すれば良いんだ。やってやろーじゃねぇか!」


「調査の結果、その時代に有機物プリンターがあるのは、ほぼ間違いない。それ以前は定かではないから、戻るならこの時代までが限界ね。」


「ようやく母様から聞いていた、曾お祖父様にお会い出来る。マザーブレインとの死闘で生き残った唯一の戦士…。僕達は共に戦い、この世界をAIの支配から解放する。」


三人は見つめ合って頷く。

アンがポツリと言った。

「私は、昔の人が食べていたスイーツと言うものを食べてみたい。とても甘い?甘いという味なんですって。それがすごく美味しいらしいわ。」


ジョージとケンタも、つられて思い思いの未来が頭を駆け巡る。


「おれは、自分で車を運転して旅行に行きたいぜ!」


「僕はこのタイムマシン作成任務以外の勉強や研究がしたい。」


その未来を胸に、ケンタは震える手で起動ボタンを押した。


青緑のライトが明滅する。


「よし、起動は問題なしだ。まあ、後は使ってみなければ分からないが…。」


「コイツで俺たちを原子レベルに分解。電波に乗せて過去に送り、有機物プリンターが受信して再構築。理論上、過去に戻れるってわけだ。」


「言うのは簡単よ。私、やっぱり今更になって失敗するのが怖くなってきた…。」


「無理しなくても、僕とジョージだけで行ってもいい。膨大なエネルギーを使うから、転送すればAIに絶対バレる。故に転送のチャンスは一度きり。失敗したら、というアンの不安を取り除く術はないから。」


「ううん。弱音を吐いてみただけなの。私だけ未来で待つことなんてできない!私…行くわ!」

精一杯の強がりだけれど、足の震えが隠せていない。


「それに過去に戻る事ができれば、当時の瞬間凍結技術で未来に戻ることは間違いなく出来るから安心しな!」


自然に手が重なり合う。

切り開かねばいけない未来がある。

この三人でやり遂げる、そう誓った。


「僕たちは自由を掴む為に!」





    ※    ※




沢山の赤い服を来た、薄汚れた男達がケンタ達を囲んでいた。


「召喚機は成功だ!見ろ!救世主が現れたぞ!」

うおおおお!地鳴りのように響く。

「おい!俺にもよく見せろよ!」

「リーダー!!女…女の子もいますぜ!」


低い声がどこからか響く。

「待て、迂闊に近づくな。」


騒がしさに、ケンタは薄く目を開ける。

「過去に戻れたのか?」


ジョージはまだ目を瞑っていたアンを揺すって歓喜の声で言った。

「座標もこの有機物プリンターも間違いない!反乱軍の基地だ!アン!おいアン!起きろ!」

「ん…私たち、過去に戻れたの?」

「ああ、そうみたいだ」


ケンタは赤い服の男たちと対峙した。

お互いの間に緊張が走る。

「単刀直入に言おう。おれたちは未来からマザーブレインを壊しに来た。貴方たちは反乱軍か?」


だが、男達の言葉はケンタ達を混乱させた。

「おい、まさか我々の施設を壊しに来たのか!?」

「お前ら治安当局のスパイか!?」

「リーダー!!コイツらは俺たちの計画を阻止しようとしているのでは!?」


低い低い声が響く。

「慌てるな。彼らと話し合いが必要だ。」


ケンタはその声の主を探そうと見回した。

アンが震えて後退して、ジョージにぶつかった。

「おい、どうしたんだよ?」

「あ、あれ…わ、わ」


ケンタとジョージが見上げたのは同時だった。

直後、アンが凄まじい悲鳴を上げる。

「きゃあああああぁぁ!!」


そこには溶液に浸された脳が無数のプラグやコードに繋がれて浮いていた。


その異様な光景に、ケンタもジョージも顔面蒼白になる。


「なんだこれは!」

ケンタが思わず叫ぶと、やはりどこかから低い声がする。

「あまり驚かないでくれるかな、もう随分と前に体の方がダメになってしまってね。こんな姿で失礼するよ。」

「ひっ…!」

アンはぎゅっと目を瞑り蹲ってしまった。

「私はこの反乱軍のリーダーだ。君たちは未来人だね?」

ケンタとジョージは目線を合わせ、困惑しながらも答えた。

「そうだが。」

「私達はね、この世の中を変えてやろうと思っているのだよ。君たち未来の世界はどんなだい?素晴らしい自由な世界ではないかな?」

「残念だが、そうではない。だからこうして完成前のマザーブレインを壊しに来たんだからな。」

「お前達の目的は、破壊か。」

「そうだ。僕達の未来は支配され選択の自由すらない。そんな未来を変えに来たんだからな。」


一層低い声が、威圧するように言う。

「では、私たちの計画を壊しに来たのかな?童共。」

ジョージが噛み付く。

「おいおい、まさかてめえがマザーブレインじゃねえだろうな!?」

「さあ?未来でそう呼ばれているのかな?光栄だ。」

「貴方達はそんなものを作って何をしようというんだ!」


嘲笑う声がする。

「お前達は過去を知らないんだなあ。人間はみんなそうだ、忘れてしまう。だが、私達は忘れない。暴力を、略奪を、拷問を。国と国の争いだけじゃない。同じ国民同士が些細な違いでバカみたいに争うんだ。次第に飢えて死んでゆく、この国は破綻している。」

「だから?だから何をしようと?」

「均すのだよ。今こそこの国を一から建て直そうではないか。」


3人は目の前の敵を睨みつける。

「どうも私の力だと、政府の根幹コンピューターに入り込めなくてね…君たち未来人の知識を借りようと思ったのだが…残念だ。」

「マザーブレイン!お前を壊す!!」


低い大きな声が号令を出す。

「…決裂だ。」


何人もの男達が飛びかかってくる。

「リーダー万歳!!」

「リーダー万歳!!」

うおおおお!!

うねるような雄叫びだ。


ケンタは、その狂気に気押されて叫んだ。

「こ、こいつら狂ってる!!ここは危険だ!ひとまず逃げるぞ!!どこかに居る曾お祖父様と合流…グァっ!!!!」


「ケンタ!!!!」


男達は死んだような瞳でゆらゆらと近づいてくる。血に染まった鈍器を見て、アンは腰を抜かしてしまった。


「ゴーグル野郎の頭はかち割った。」

「こりゃ死んだなあ。」

「女は久しぶりだ!犯してから殺そう!リーダー、良いですよね?」


もはや感情の読み取れない声が響く。

「好きにしろ」


「やめッ!いやぁ!!!」


「アン!!!!!」

ジョージが助けに入ろうとするが、人数の多さにどうにもならない。

向かってくる剣先を、なんとかいなすだけで精一杯だった。


「どうせ死ぬんだ。最後くらい自由にいい思いをしようじゃないか。」

「こんな…こんなの自由じゃない!ただの、犯罪よ!」

「大人しくしろ!ガッッ!」

ジョージが手に持ったスパナで殴り倒した。

「アンから離れやがれ!野蛮人!」


「クソッ!男は殺せ!」

「未来から来たくせに邪魔するんじゃねぇ!」

「さぞ良い世界なんだろ!?俺たちが作ったんだぞ!それを壊す!?ふざけるな!」

「そうだそうだ!」

それぞれに好き勝手なことを言い出して、波紋のように狂気が彼らの中に蔓延していく。

それぞれの瞳に明確な殺意が宿ってアンはそれを敏感に察知した。


何十人もの男たちが、じりじりと二人を取り囲んでいく。


「ジョージ。もう、私たちは逃げられないわ…。」


「くそッ!なんなんだよぉ!せっかくここまで来たのに!!」


「私、過去に戻ったら未来を変えられると思った。過去は自由だと思い込んでいたから。でも、そうじゃない。私たちは間違っていたの!?」


アンは咄嗟に機械に飛びついた。


「アン!何してる!」


「せめて!こんなクソリーダーの脳ではなく、私の脳を転写する!どうせ未来に戻れないなら、過去を変えられないなら、私は私の秩序で生きる!」


男達の窪んだ瞳が大きく開く。

わあわあとアンに向かって飛びかかった。

「リーダーに触るな!!」

「やめろ!」


アンは施設のメインパソコンに飛びつくと、タカタカとすごい勢いでタイピングしていく。


リーダーの脳からプラグやコードが外れていく。

「6j7やか84きお」

低い声でめちゃくちゃな言語が、やや機械的に響く。

やがて、ピーっという電子音が響いた。


『蘇生停止、排水を開始します。』


アンはいつの間にかジョージから奪っていたスパナで溶液の入ったガラスを割った。

排水機能より早く水が噴出する。

割れ目から強引にプラグやコードを引き抜いた。

割れたガラスがアンの腕を傷つけたが、どうでも良いみたいな顔をしている。


「うわあああ!!!」

「リーダァァァァ!!!!」

「クソアマァァ!!てめえは絶対殺す!!何度も犯して下と上を切り離して別々に使ってやる!!」

「一番苦しむ方法で殺す!!」

「許すな!」

「許すな!」

凄まじい怒号が響く。


アンは構わずプラグを自分の頭に無理やり捩じ込んでゆく。

めりめりと嫌な音がした。

目や鼻、あらゆる穴から血が吹き出していく中、二本、四本と繋いだ。


目の前の女の狂気に、誰もがその場から動けなくなる。


アンは右と左の目がてんでの方向を向いていたが、それでもキーボードを叩いた。

轟音と稲光がアンを包む。

暗がりに響いた最後の声。

「約束の、未来を。」


もう、目の前にアンの姿はなかった。


ジョージはあまりの事に、言葉を失い放心するばかりだった。


沢山の光の筋がジョージを眩しく照らす。

沢山の足音が聞こえてきた。

治安当局が突入して来たのだ。

「お前達!国家反逆罪で全員拘束する!」

黒ずくめに武装し、ライフルについたライトがあちこちを照らしている。


「嘘だろ!?なんでバレたんだよ!」

「捕まったら、拷問だぞ!」

「基地の自爆ボタンを押そう!いいな!?」

「一思いにやれ!拷問よりマシだ!」

「くそーー!!」


太い指で男がボタンを押すと、一瞬にして目の前が真っ白になった。





とある女性が、ベットで子どもに話しかける。

「昔々、反乱軍が自由を求めて、マザーブレインと戦ったのよ。その戦いは激しくて、みんな死んでしまった。唯一生き残ったのが、ほとんど記憶を失った貴方の曾お祖父様。記憶は無くなっても"ケンタ"という名前だけは覚えていたの。反乱軍の英雄"ケンタ"の伝説は今も沢山語り継がれているのよ。」

「お話の続きを聞かせて!」

「ふふふっ、いいわよ…。」




    ※  ※





「知ってる?"ファーストシティ"のファーストってフランス語で"アン"、ファーストって言う意味なんだって。」


「マザーブレインの正式名称はアン、そしてアンが支配する町だからファーストシティなんだろ?」


「そう。両親がマザーブレインの様に秩序と愛を持てってつけてくれたんだけど…あんまり好きじゃなくて…」


「ふぅん。…ってかケンタ!あとどのくらいで完成すんだ?!」


「もう少し、もう少しだ!ここを接続すれば……よし、取り敢えず設計図通りに組み立ては完了した。あとは起動確認だが…」

メカニックゴーグルを外し、流れる汗を汚れた袖で拭きながらケンタは言う。


「無謀と言われたタイムマシンだが、俺たちがついに成し遂げたんだな!」

大きなフタが閉じられ、ハンドルをロックしながらジョージは言う。


「これが成功すれば、ちゃんと自由な世の中になるのかな…」

ホログラムに膨大な数字が映し出され、驚くような早さで処理していた手が一瞬止まり、アンが言った。

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