02
時は流れた。
人間に失望した私は森に帰り、人間に近づかれないように大量の魔獣を放った。緑が生い茂り美しい花々が咲き誇っていた森は死に、いまや瘴気渦巻く魔獣の大巣窟として人間から恐れられている。
都合が良いわ。
もともと私は一族の最後の一人だもの。
不老長寿とはいえ魔女にも寿命があるのよ。
番となる魔女一族の男がいなければ子もなせないの。朽ち果てるまで一人で穏やかに過ごしてやるわ。うふふ、二百年も森で暮らしてきたけれど、ようやく私も魔女っぽくなったわね。
薬草を調合し、精霊達と交信し、時たまにくる人間をビビらせて追い返し、可愛い動物たちと戯れる毎日。
最高よ。だって独りじゃないもの。
これが魔女。
私の生き様だわ。
んー。
でも、この生き様を後世に語り継がれないのは悲しいわね。
前、人間たちが自伝を本にして売っているのを見たけれど、やってみようかしら。
大魔女フェリツィアの自伝なんて、響きが良いじゃない?
あぁでも、読んでくれる人がいないのは残念ね。
精霊達も字が読めたらいいのだけれど。
でもいいわ、私が死んだら人間の誰かがこれを読むかもしれない。
うふふ、私の手記を見て人間達が震えあがったら気分が良いわ。
よーし。毎日書くわよ!
1日目
今日は風の精霊フェイと地の精霊ロッカが喧嘩をしていたわ。
何気ないことで言い争っていたけれど、喧嘩はよくないって仲裁しておいたわ。
そうそう、この間に鹿の子どもが生まれたのよ。
小鹿は足を震えさせて、母鹿の乳をまさぐっていたわ。
もう、なんて可愛らしいのかしら。
何度も何度も撫でくりまわしちゃったわ。
お尻を噛まれたのは少し痛かったけれど、可愛いから許しちゃったもの。
すくすく成長していくといいわね。
2日目
今日も風の精霊フェイと地の精霊ロッカが喧嘩をしていたの。
どうも、どっちが私の正統なる精霊に相応しいか揉めてるそうなのよ。
もう、私にとってはどっちも大好きなのよ。
だから抱きしめてあげたら、フェイは顔を真っ赤にして飛び去って行ったわ。
照れ屋さんなのね。可愛いから捕まえてもう一度抱きしめたのよ。
そうそう、小鹿は元気そうにしていたわ。
母鹿と草をもりもり食べていたのよ。