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探偵、ロード  作者: 読み方は自由
事件録1:道標と道を進む者
9/12

第9話 新情報

 ロードは、彼の声に姿勢を正した。


「調べているんです。事件の手掛かりを。彼と一緒に」


 青年は彼の相棒、つまりはウォランの顔をしばらく見ていたが、ウォランが「そ、そうです」とうなずくと、訝しげな顔でロードの目に視線を戻した。


「お前は、誰だ?」


「え?」


「警官の男を連れて。朝の事は、当然覚えているだろう?」


「はい」が、ロードの答えだった。「もちろん覚えています。庭の前庭であなたと……。あなたは、オレの事を睨んでいましたよね?」


 庭師の青年は、彼の質問に答えなかった。


「もう一度言う。お前は一体、何者だ?」


 ロードは、彼の質問に微笑んだ。


「探偵です。警察の人に呼ばれた。名前は。ロード・ノウと言います」


「探偵? ロード・ノウ?」


「はい」の返事が、力強かった。「あなたの名前は?」


 青年は、彼に自分の名前(かなり嫌そうだったが)を教えた。


 青年の名前は、バルダ・ノーチェス。歳は二十代の半ばで、十七歳の頃から『ココ』に務める庭師の青年である。性格は(クリス警部とは違う意味で)、見た通りに無愛想。表情の方も乏しく、ロードが「アハッ」と笑いかけても、反応はおろか、笑いかえす事さえしなかった。


「あなたのお仕事は?」


「俺の仕事?」


「はい」


「見た通りに庭師だが?」


「それ以外で。例えば」


「……夜の見回り?」


「え?」と、驚くロード。「見回り?」


「ああ。俺は夜、ココら辺を歩いている。敷地の中に不審者がいないか。それを一つ一つ確かめているんだ。俺の雇い主が困らないように。昨日も」


「敷地の中を見回っていたんですね?」


 バルダは、彼の質問にうなずいた。


「ああ、見回っていたよ。それが俺の仕事だからな。俺は、いつもの時間に」


「バルダさん」


 ロードは、鞄の中から備忘録を取りだした。


「見回りは、いつも何時頃にやっているんですか?」


「通常なら九時、どんなに遅くても九時半にはやっている。俺は右手に角灯を持って、敷地の中を静かに歩きはじめた。敷地の中は、物音一つしない。文字通りの静かだったよ。俺は、旦那の部屋を通って」


「ジョン氏の部屋に?」


「ああ。正確には、その外側だがな。俺は、部屋の窓を見ると」


「カーテンが閉められていたんですね? 部屋の中からはこう、妙な音は聞こえませんでしたか?」


「妙な音?」


「はい。例えば、『女の人と楽しげに話す声』とか。あなたの気づいた範囲で」


「……いいや、何も。旦那がサ……雇いのメイドに話す声は聞こえたが」


「ジョン氏は、彼女に何を話していましたか?」


 バルダは、その質問に唇を噛んだ。


「これから人に会う」


「え?」


「俺が聞いたのは、それだけだ。メイドの方は、『そうですか』とか『誰がいらっしゃるんですか?』とか言っていたけど。俺はその会話を聞いただけで、敷地の中をまた」


「歩きはじめたんですね?」


「ああ。あの部屋には俺も、できれば近づきたくないからな。昔の」


「昔? 昔に何かあったんですか?」


 の質問に、バルダの顔が青ざめた。


「い、いや、別に」


「バルダさん!」


 ロードは、彼の目を見つめた。


「正直に話して下さい!」と。その威圧に、バルダはビクンと震えてしまった。


「警察に言うのか?」


「え?」


「俺が! その、正直に言ったら。お前は、警察にその事を言うのか?」


「それは、内容にも寄ります。あなたが『それ程』の罪を犯しているのなら。オレは迷わず、あなたの事をつき出します。『重い罪』を背負った犯罪者として」


 バルダは彼の言葉に俯いたが、ロードはその甘えを許さなかった。


「バルダさん。もう一度言います。正直に話して下さい」


「……わ、悪ガキだったんだよ、昔の俺は。他人の部屋に平気で入る、薄汚いコソ泥。俺は、十八の時に……」


 夕陽の光が弱くなった。


「あの部屋に、ジョン・アグールの部屋に入った。急拵えの針金を使って。俺は、旦那の金が欲しかったんだよ。自分の手から溢れる程の金が! 俺は、旦那の部屋に入ると」


「彼のお金を盗ったんですね?」


「いや」と、バルダは首を振った。「金は、盗っていない。本当は『盗ろう』と思ったが……部屋の物に触れて、その気持ちをすっかり失ってしまった」


「部屋の守りが堅かったから?」


「違う! 俺が旦那の金を盗らなかったのは、その部屋にあった物がみんな……『特殊道具』だったからだ。見た目は、普通の道具と変らないのに。くっ! 俺は、その道具に脅えて」


「バルダ……さん」


 バルダは、目の前の探偵に頭を下げた。


「頼む! 俺の事はどうか、見逃してくれ! ここで捕まったら……ううっ」


「バルダさん」


「ううん?」


「あなたが部屋に入ったのは、部屋の中を掃除する為ですよね? 自分の雇い主を喜ばせようと。あなたは彼の部屋に入って、部屋の中を整理しようとしたんです。まさか、そこに『特殊道具』がある事も知らずに。あなたはただ、その厚意を果たせなかっただけだ」


 ロードは、右手の備忘録を握りしめた。「そうでしょう?」


 バルダは「それ」を聞いて、その場に泣き崩れてしまった。


「う、ぐっ、うっ、ありがとう、ありがとう」


 ウォランは、ロードの横顔に話し掛けた。


「良いのか?」


「うん。『鍵穴の謎』も解けたし。彼は、誰も殺していないからね」


「でも、犯罪は『犯罪』だろう?」


 ウォランは彼の横顔を見つめたが、ロードは「それ」に答えなかった。


「バルダさん」


「う、ぐ、うっ」


「落ち着いてからでいいです。あなたが触れた特殊道具の事を教えて下さい」


「う、ぐっ、分かった」


 バルダは、十分ほどで落ち着いた。


「すまなかったな」


「いえ。それじゃ」


「ああ。俺が最初に触れた特殊道具は、熊の形をした置物だ」


 を聞いて、ロードはその置物を思い出した。


「ああ、アレか。その置物に触れると、どうなるんです?」


「偶然に見つけただけだが。そいつの頭を三回撫でると」


「撫でると?」


「本物の熊みたいに鳴き出す。大の男が悲鳴を上げる程の声で。あの時は」


「それ以外の特殊道具は?」


「すまん。良く覚えていない。あの時は、酷く混乱していたから。他にも特殊道具があったと言う事は、覚えているけど」


「そうですか」


 ロードは、彼に頭を下げた。「貴重な情報をありがとうございます」と言って。それから彼の前に手を伸ばし、「立てますか?」と言いながら、彼の身体をそっと立たせた。


「ウォラン」


「ん?」


「ジョン氏の部屋に行こう。あそこには、事件の真実がある」


「分かった」


 二人は彼の部屋に向かって歩き出したが、後ろのバルダに「待て!」と呼び止められてしまった。「はい?」


 バルダは、ロードに頭を下げた。


「朝の時は、悪かったな」


 の言葉に首を振るロード。


 ロードは穏やかな顔で、彼に「そんな事は、ありません」と微笑んだ。


「得体の知れない相手に脅えるのは、至って普通の思考です」

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