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探偵、ロード  作者: 読み方は自由
事件録1:道標と道を進む者
2/12

第2話 死因

 今回の仕事場は、凄かった。仕事場の正面に設けられた鉄門はもちろん、その奥に広がっている前庭も、今まで見てきたどの仕事場よりも華やかだった。

 

 ロードは警官の案内で、前庭の中に入った。


 前庭の中は、綺麗だった。地面の芝生が見事に手入れされていて、左右の木々も美しい左右対称(シンメトリー)を描いていた。

 

 彼はその光景に「すごい」と驚き、警官もその感想に「そうですね」と同意した。


「しかし、中に入ったら。もっと驚く事になります」


 警官は、彼の足を促した。


「進もうか?」


「は、はい!」


 ロードは彼の後を追いつつ、周りの景色をしばらく眺めていたが、ふとある視線に気づくと、今までの思考を忘れて、その視線に素早く振り返った。


 視線の先には、若い男が一人。


 男は彼の視線に苛立つと、恐ろしい顔でロードの顔を睨みつけた。


 ロードはその視線に怯んでしまい、慌てて目の前の警官に話し掛けた。


「あ、あの?」


「はい?」


「あちらの方は?」


 警官は、彼の見つめる先に目をやった。


「ああ、彼ですか。彼は、ここの庭師ですよ。かなり前から働いているらしくて。名前の方はまだ、伺っておりませんが」


「そ、そうですか」


 ロードは警官にお礼を言い、自分の正面に向き直った。


 二人は、屋敷の中に入った。


「凄いシャンデリアですね。天井があんなに高いのに」


「まるで目の前に迫ってくるように見える、ですか。私も、入った時は驚きましたよ。『まさか、世の中にこんなシャンデリアがあるのか!』ってね。廊下の大理石にも、思わず驚いてしまいました」

 

 警官は横目で、ロードの顔を見た。


「クリス警部は、屋敷の応接間にいらっしゃいますが。どうしますか? 先に現場の方を見ていきます? それとも」


「現場に行きます。死因の方も知りたいですし。クリス警部にも、その方が色々と話しやすいと思いますから」


「分かりました。なら、そのようにお伝えしておきます」


 警官は「ニコッ」」と笑って、彼の前から歩き出した。


「少し待っていて下さい」


 ロードは、警官が戻って来るのを待った。


「お待たせしました。それでは、行きましょう」


「はい」


 ロードは彼に続いて、ジョン・アグールの部屋に行った。


 ジョン・アグールの部屋は、屋敷の一番奥にあった。大理石の廊下を進んだ先にある、とても静かで不気味な雰囲気の漂う部屋。部屋の前には、二人の警官が立っていた。

 

 ロードは、二人の警官に頭を下げた。


「お疲れ様です」


 二人の警官は、彼の挨拶に応えた。


「毎度毎度、すまないな」


「今回も、お得意の名推理を見せてくれよ」


「はい」と、うなずくロード。


 彼は扉の前に跪き、その鍵穴に目をやった。


「すいません。ここの所を少し、見せて貰っても良いですか?」


「良いよ」と、警官達はうなずいた。「好きなだけ覗いてくれ」


 ロードは、鍵穴の中を覗いた。


「新しい物では、ないけど。こじ開けられた跡がある。鉄製の器具でガリガリと引っかいたような」


 警官達は、彼の横顔に話し掛けた。


「ロード君」


「はい?」


「何か分かったか?」


 の質問に笑みを浮かべるロード。


「ええ、まあ。でも、まだ何とも言えません。この手掛かりが……」


 彼は二人の警官に頭を下げると、立ち入り禁止のロープを跨いで、事件現場の中に入った。


 事件現場の中は、警官達の姿で溢れていた。近くの仲間と意見を言い合う者、部屋の中を静かに見渡す者。遺体の近くにいる警官は、隣の上司に「こいつは、どう見ても自殺ですよ。それ以外には、考えられません」と言っていった。

 

 ロードは、彼らの近くに歩み寄った。


「本当にそうですか?」の言葉に驚く警官達。


「うわっ!」


「って、なんだ、坊主か。いきなり話し掛けるんじゃねぇよ」


「すいません」


 上司の警官は、彼の謝罪に溜め息をついた。


「それで、今日も呼ばれたのか?」


「はい。部屋の外には、案内役の人も待っています」


「そっか。ふん! まるで要人だな。実際は、ただのガキだって言うのに。十四の探偵は、どんなに凄くても、やっぱり子どもだよ」


 警官は、床の遺体に視線を戻した。


「坊主」


「はい?」


「この死体をどう見る?」


「……そうですね」


 ロードは、ジョン氏の遺体を見下ろした。


 ジョン氏の遺体は聞いた通り、床の上に倒れている。まるで永遠の楽園でも見つけたかのように。遺体の近くには、割れたワイングラスと、そのグラスから漏れた赤ワインが零れていた。

 

 ロードは、ジョン氏の遺体を調べた。


「遺体の状態から見て……死亡推定時刻は、昨日の午後11時から今日の午前2時の間でしょう。今の季節から考えれば」


「うむ。それで、その死因は?」


 少年の目が鋭くなった。


「彼の死因は、中毒死です。それも、極めて毒性の強い。服用者の死に快楽を与える程の」


 ロードは、床の上から立ち上がった。


「使われたのは、禁止薬物のデロメラブレですね? 『自殺志望者』が良く好んで使う、別名『死の快楽酒』とも呼ばれる猛毒の。この猛毒を飲んだ人は、あらゆる苦痛を快楽に変えて」


「あの世に旅立てる、か?」


「はい。だから、自殺者達に人気なんです。気持ち良く死ねますからね。首吊りの『それ』よりも、ずっと楽である筈だ。でも」


「ん?」


「それだけで『自殺だ』と決めつけるわけには、いかない。デロメラブレが検出された場所は、何処ですか?」


「ワイングラスの内側だ。それが赤ワインの中に混じって」


「『ジョン氏の命を奪った』と?」


「ああ。俺の推理じゃあな。周りの奴らも、そう考えているよ。ボトルの中にも、毒は入っていなかったし。あの世に旅立つ流れとしちゃ、この出発点しか考えられねぇ」


「なるほど。それじゃ」


「ん?」


「ワイングラスの(ボウル)には、『指紋』は残っていましたか?」


「……いや。本人のそれ以外、他の指紋は出て来なかったよ」


「そうですか。なら、『ワインボトル』の方には? テーブルの上にずっと……おそらくは、昨晩から置かれている筈の。そこに指紋が残っていれば」


「残念ながら、そこにも指紋は残っていなかった」


「ワインボトルのラベルにも?」


「ああ。ボトルの裏にも、底にも。犯人……って奴がいればだが、意図的に拭き取ったんだろう。自分の痕跡を残すために、な」


 警官は、少年の目を睨んだ。


「坊主」


「はい?」


「今回の事件は、自殺か? それとも」

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