chapter05 「約束手形」って何!? ※一部2級の内容有
※このエピソードで語られている内容のうち「手形割引」については、日商簿記検定3級は2019年度から、全経簿記検定3級商業簿記は2017年度から出題範囲から削除され、それぞれ2級の出題範囲となりました。
「ねえねえ嶋尻さん!」
この先生は酒井先生。今年けやき商に赴任した情報科の先生だ。
パソコンにとっても詳しくて、噂によるとIT企業に勤めていたこともあるらしい。
でも、簿記のことはあまり詳しくないらしく、でも資格を取得することには興味を持っているようで、「見学」と称して私たちの簿記の授業を聞きに来ることもある。
「酒井先生、こんにちは!昨日の授業見学はどうでした?」
「実は、そのことであなたたちに聞きたいことがあってね」
「どんなことですか?」
「(簿記の先生に聞きに行けばいいのに、何で私たちに聞くのかなぁ…)」
「昨日の戸山先生の授業で「手形」っていうのが出てきたでしょ?あれが、いまいちよく分からなくて…」
「ほら、よくドラマで「手切れ金だ!」なんて言って、金持ちが小切手に金額をささっと書いて、渡すようなシーンがあるじゃない?あの「小切手」と姿形が似ている「手形」って何なのかなぁ…と思ってね」
「先生…どんなドラマなんですか?それ…」
「まあまあ美琴ちゃん!先生。先生がよく見るドラマに出てくる「小切手」って、どんなものだかお分かりですか?」
「それはさすがに分かっているわ。「銀行に持っていくと、すぐにお金にしてくれる紙」だったわよね。だから「小切手を振り出して支払った」だったら当座預金を減らして「小切手を受け取った」だったら、お金と同じものを受け取ったとみなして現金を増やすんだったわね!」
「はい。私もそのように戸山先生に教わりました」
「だから「小切手」って、「当座預金」の口座残高以上に振り出せないんだよね!」
「残高以上に振り出してしまったら「不渡り」になって、それ以降小切手での支払いができなくなるから、大きな取引ができなくなって、事実上「倒産」するんだったわよね!」
「でも、当座預金の残高がない時に不意のビジネスチャンスが巡ってきて、お金が必要になったりすることもあるはずだよね…」
「そんな時に、銀行に行ってお金を借りなくてもいい方法の一つに「手形」があるぞって、戸山先生は行ってましたよね!」
***
「…となるから「小切手」は当座預金の残高がない時には使えないぞ!そんな時のために「手形」があるんだ!」
「…」
「先生!教科書には「約束手形」と「為替手形」の2種類があるって書いてありますけど、どう違うんですか!?」
「その通り!でも「為替」はちょっと難しいから、今日は「約束」の方だけ教えるぞ!」
「…」
「(酒井先生、一番後ろにいてよく見えないが、あれは寝ているのか??)」
「先生!どうしたんですか!?」
「おう嶋尻!ごめんな!それで、だ。嶋尻!小切手はすぐに「現金」にしてくれる紙切れだったよな?」
「はい!なので、振り出した時は「当座預金」を減らして、もらっただけの時は「現金」を増やします!」
「そうだよな!じゃあ、もし嶋尻がもらった「小切手」に「支払日」っていうのが決まっていて、その日まで銀行に持って行ってもお金にならないとしたら、お前はどうする?」
「そうですね…私だったら、支払日まで金庫に保管しておいて、支払日になったら銀行に持って行きますね…」
「「小切手」に「支払日」を設けて、受け取った側はその日までお金にはできない。逆に振り出した側は、振り出した日に当座預金の残高がなくても、支払日までに当座預金にお金を用意することを約束する…それが「約束手形」なんだよ!」
「「支払日にお金を払うことを約束した紙」。なんだか、お金を借りる時の「借用証書」みたいですね」
「三枝は相変わらずいい所を突くな!「借用証書」を使ってお金を借りるのは「借入金」だが「約束手形」も結局は渡した相手に対して約束の日にはお金を払うことになる。つまりは、振り出した側は「支払手形」という「負債」の勘定科目で処理するんだ」
「一方で受け取った側は「追々お金になる紙切れ」をもらったことになる。増えすぎるのは良くないが、持っていて損するものではないから「受取手形」という「資産」の勘定科目で処理するんだ」
「…」
「(酒井先生、相当疲れてるみたいだな…)」
「先生!どうしましたか?」
「いや、何でもない」
「先生、受け取った約束手形を、支払日前に現金化することってできないんですか?」
「通常、約束手形に記載された支払日にならないと、銀行はお金にしてくれないな。だが、銀行に「手数料」を支払うことで、約束手形を買い取ってもらうことができる。この行為を「手形の割引き」と言い、この時に支払う手数料を「手形売却損」と言うんだ」
「「手形を銀行に売却して損しました」ってことですね!」
「その通り!昔は「支払割引料」や「支払利息割引料」という勘定科目を使っていたんだが、簿記のルールを司っている会計基準が改正されて、手形の割引は「手形の売却」と考えられるようになった。そのため、数年前から「手形売却損」という勘定科目に名称が変更されたんだ」
「確かに、私たちも先生の話を聞かなければ「割引料」って「商品代金を割り引いた時に発生した費用」って勘違いしそうです!」
「一般人の日常生活で「持っている手形を割り引く」なんてことを行う機会はほとんどないですしね♪」
「よーし。今日はここまで!明日の俺の授業で、為替手形について教えるぞ-。今日の内容はしっかり復習しておくように!」
「!!!(…戸山先生の授業聞きたかったのに、ついつい寝てしまったわ…どうしよう…)」
***
「「小切手」の「支払日が決まったバージョン」が「手形」。戸山先生の授業、本当に分かりやすいよね。私、戸山先生の授業で良かった!」
「そんなこと言ってるけど、戸山先生の授業でも分からないと、煉先輩のところに行くくせに!」
「だって、煉先輩の教え方もうまいんだもん!」
「えっ、なになに?嶋尻さん、好きな人でもいる訳?」
「もう!紗代ってば余計なことを!!…ところで、酒井先生、手形のことについて、戸山先生の授業、思い出したんですか?」
「(手形の部分だけ、戸山先生の授業で寝ていたことだけは思い出したわ…)」
「先生!?」
「えっ?いや、何でもないわ。気にしないで!手形のことについても、ばっちり分かったわ。ありがとうね。嶋尻さん、三枝さん!」
「いいえ。私たちも酒井先生のパソコンの授業でお世話になってますから…」
「で、嶋尻さんの好きな人って、一体だれなの?」
「先生!その話はまた今度で…」
…
chapter6 に続く