★chapter40 「証ひょう」って何!? その1
ある日の部活終了後…
”カリカリカリカリ…”
「……頑張っているみたいだな!!」
「煉先輩!そうなんです。改訂されたばかりの日商簿記検定を、今度受験することになっていて…」
「そうなのか…で、勉強は順調なのか?」
「それが…証ひょうの問題で、ちょっと引っ掛かってて…」
「ああ、あの現実でやり取りされている書類を見て、仕訳を記入しろって問題だな」
「それです!会社が二つ書いてあったり、普段目にすることのない証ひょうだったりするもので、答えを見れば理解できるんですけど…」
「なるほどな…それじゃ、俺が今教えようか?」
「はいっ!ぜひお願いします。それじゃ早速…」
問1 当社は運送会社より次の今月分の請求書を受け取り、即日普通預金口座から振り替えて支払った。尚、請求額全額が当社負担の引取運賃であり、仕入れの都度、仕入原価に加算し、引取運賃分は未払金として処理している。
「普通に考えれば、請求書の中に『発送費』と書かれていますから、『発送費』を使うんでしょうけど、問題文に『当社負担の引取運賃』って書かれているし、何か『未払金』なんて勘定科目も出てきているしで…」
「なるほどな。確かにこの問題は少し厄介な問題だな。まず、問題を解く前に『仕入れの都度、仕入原価にに加算し、引取運賃分は未払金として処理している』の部分を考えてみよう。この会社では、仕入れた時に…
(借方(左側))仕入 11,000
仮払消費税 880
/
(貸方(右側))買掛金 10,800
未払金 1,080
のような仕訳をしているということになる」
「……ああ!未払金の部分が引取運賃の部分ってことですね!で、それを運送会社がまとめて請求してきたってことですか?」
「そういうこと。日本の会計基準では、費用は『発生主義』、収益は『実現主義』で計上することが原則になっている。故に、運送会社に払うべき引取運賃部分は、仕入れた都度『仕入』の中に入れているという訳さ。だから、今回の請求書の問題の場合、未払金を払ったという仕訳をすればいい。つまり…
(借方(左側))未払金 108,000
/
(貸方(右側))普通預金108,000
という仕訳をすれば良いのさ」
「なるほど!消費税の分も、仕入れた時に『仮払消費税』で処理済というところもポイントですね!」
「そういうこと」
「で、次なんですが…」
問2 ABC物産より次の納品書と共に、商品を受け取った。
「これは、うちのお店は『XYZ商事』ってことですよね…だから、問題文の通り商品を受け取った訳だから…
(借方(左側))仕入 270,000
仮払消費税 21,600
/
(貸方(右側))買掛金 291,600
ってことですか?」
「正解!良くできました!」
「やったぁ!!」
「それじゃ、これが『ABC物産の仕訳をしろ』って問題だったら?」
「…この仕訳の全く逆の仕訳をすれば良いんですよね…ということは
(借方(左側))売掛金 291,600
/
(貸方(右側))売上 270,000
仮受消費税 21,600
っていうことですね!?」
「その通り!俺に教えてもらわなくても、できてるじゃないか!」
「(だって…それは先輩とお話がしたいって口実で…)」
「えっ!?何か言ったか?」
「いえ、何でもありません!次の問題もお願いします!!」
問3 郵便局より郵便切手を購入し、代金は現金で支払い、郵便切手と次の領収書を受け取った。
「これは…先輩に聞くまでもない問題ですね。
(借方(左側))通信費 5,400
/
(貸方(右側))現金 5,400
で決まりでしょ!」
「……美琴…左下をよ~く見るんだ」
「………あ゛あ゛!!こんなところにも『消費税』の文字が!!ていうことは…
(借方(左側))通信費 5,000
仮払消費税 400
/
(貸方(右側))現金 5,400
ていうことですね!」
「そういうことだな。もし、問題文に『税込経理方式で仕訳をしている』のような言葉が出てきた場合は、消費税のことを気にせず、金額だけで考えれば良いんだがな」
「そうなんですね…同じ問題でも、経理の方式によって仕訳の問題の答えが変わるなんて、ちょっと大変ですね…」
「ああ。だから、問題文をよく読んで、消費税のことを考える必要があるのかないのか、確認する必要があるってことさ」
「そうですね!!」
”キーンコーンカーンコーン…”
「煉君に美琴さんじゃないですか…もうすぐ完全下校の時間ですよ」
「若林先生、すみません。先輩に簿記を教えてもらっていたもので…」
「美琴…まだ俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「はい………先輩、この後予定って何かありますか?」
「いや、とくにはないが…」
「それじゃあ、この続きのレクチャー、駅前のカフェでお願いできませんか?」
「分かった」
「二人とも、勉強熱心なことは感心ですが、あまりお家の人に心配を掛けないようにして下さいね」
「分かりました」
「親には、帰りが少し遅くなると連絡するようにします」
「それがいいでしょう。気を付けて帰って下さい」
「はい」
「若林先生、さようなら」
こうして二人は、レクチャーの続きを駅前のカフェですることにしたのだった。
chapter41 に続く