★chapter28 「2019年 日商簿記検定3級 出題区分の変更点」
chapter27から3年後、私は先輩と共にけやき商の若林先生の元を訪れていた。
「先生、こんにちは~」
「若林先生、お久しぶりです!」
「煉君に嶋尻さん!今日は二人で来て、大学の講義は大丈夫なんですか?」
「今日の講義は、二人とも簿記系の講義で、日商簿記を持っている私たちは教授から『母校訪問を優先させなさい』と言われているので、大丈夫なんですよ!」
「今日は、今年(2019年)から変わる日商簿記3級の変更点について、今のけやき商生にレクチャーして欲しいってことでしたが…」
「戸山先生は、どうしたんですか?」
「戸山先生は、今年から別の都立高校に赴任されてね…それに、今回は『卒業生から講義を受ける』という企画ですから、戸山先生がまだけやき商にいらっしゃっても、私は君たち二人にお願いしたと思いますよ」
「そうだったんですね…」
「それじゃ、今日俺と美琴で後輩たちに行う講義について、確認しても良いでしょうか?」
「そうですね。早速確認していきましょう」
【変更する理由】舞台は『個人商店』から『小規模株式会社』へ
「まず、日商簿記3級が想定する会社が、個人商店から小規模株式会社に変更になるんですよね!」
「ああ。日商簿記3級を受験する多くの人たちのほとんどが『株式会社』で就労している、もしくはこれから就労しようとしている学生さんな訳で、試験問題の想定する『個人商店』で働くという人は本当に限られていて、商工会議所の想定と受験者との間に大きなギャップがあった訳だな」
「その影響で、個人商店には取引の可能性があったものでも、小さな株式会社では取引の可能性が低くなったり、そもそも存在しない取引があったりで、出題内容を大幅に変更する必要が出てきたということです」
「現実の処理にあっていない取引とかもありますよね~」
「そうですね。それじゃ、それらを確認していきましょう」
【1級・2級へ移行する論点】→有価証券の売買・受取配当金・手形の裏書き、割引き・直接法による減価償却・当店発行の商品券の処理
「個人商店なら、自分の店のお金を使って株を買い資産運用を…ってことも想定できるけど、小さいとはいえ株式会社の場合は、そこの社長さんがお店の金を勝手に持ち出して私用で使った場合は、横領の罪に問われることになりますよね」
「有価証券の売買がない訳だから、配当金を受け取ることもなくなるしな」
「手形の裏書や割引も、株式会社の場合はそれを行うことは少なく、直接法による減価償却に至っては、多くの会社がそれを適用せず『間接法』による記帳を基準としているので、簿記の取っ掛かりとも言える3級から2級へと移行したという訳です」
「商品券に至っては、小さな株式会社にそれを発行する力は通常ない訳で、発行できるのは大手企業に限られているから、出題が1級へと移行したという訳さ」
【出題区分から削除される論点】→繰越試算表・6桁精算表・当座借越の期中処理・売上値引・仕入値引・引出金の処理・消耗品の資産処理・「見越し」「繰延べ」という表現
「何だか、削除される論点が多い気がしますが…」
「そうですね。どれも、リアルの小規模株式会社で取引がない、若しくは作成されていないものですから、日商簿記からも削除されることになりました」
「見越しや繰延べが、未収・未払・前払・前受に表現を変えるのも、受験者にとっては問題がわかりやすくなって、良いことですね!」
【3級に新たに追加される論点】→法定福利費(社会保険料の会社負担額)・会社設立や増資処理・法人税、住民税、事業税(法人税等)・繰越利益剰余金の処理(振替と処分)・電子記録債権債務・クレジット売掛金・消費税の処理(税抜方式)・貯蔵品の処理・月次決算(減価償却費の月割計上)・決算整理後残高試算表・差入保証金・固定資産台帳・預金口座複数開設時の勘定科目
「ゲゲ!削除される論点より追加される論点の方が多いんですね…今年の受験者はいいなぁ、なんて思ってましたけど…」
「個人商店から小さな株式会社になることで、簿記上処理する内容も増えました。2級から3級に降りてきている内容もありますが、一つ一つ丁寧に学んで行けば、決して難しい内容ではありません」
「それに、問題出題にあたり、新しい論点を一気に出すようなことはしないって、商工会議所は断言しているんでしたよね!?」
「その通りです。新しい論点に惑わされず、しっかり3級の基本的な内容をおさえて学び、過去問題を中心とした問題演習を行うことが、合格への近道となるでしょう!」
「…的なことを、私と煉先輩で後輩たちにお話すれば良いということですね~」
「そういうことです!けやき商の歴史に燦然と輝くお二人の話なら、私たち教師の言葉よりも、生徒たちに響くことでしょう。今日はお願いしましたよ!」
「わかりました!」
「お任せください!!」
***
「どうも~作者の剣世炸です」
「chapter26の終わりで、3級商業簿記編は終了し、巻末附録を収録すると言っておりましたが、今年(2019年)の出題区分変更に伴い、そうも言ってられなくなりました」
「という訳で、chapter29以降では、2019年の改訂に伴い日商簿記3級に新たに追加となった論点について、美琴さんや煉君が学んで行くというエピソードを綴っていきたいと思います」
「尚、このエピソードでは時系列を揃えるため、美琴さんが大学2年生、煉君が大学4年生で母校を訪問したということになっておりますが、chapter29以降では、美琴さんは高校1年生、煉君は高校3年生という舞台にタイムスリップします」
「出題区分変更の観点からすれば、時系列が歪められることとなりますが、アニメでよくある『登場人物が年を取らない』設定ということで、ご理解頂ければ幸いです」
chapter29 に続く