chapter20 「小口現金」って何!?
「紗代~領収書と、おつり持ってきたよ~」
「美琴ちゃん!お疲れ様。買ってきた物はそこの机の上に置いておいて!」
「りょ~かい!」
私は100均で買ってきた物品を机の上に置くと、領収書と小銭を紗代に渡した。
今日は、1週間後の文化祭に備えた買い出し日になっていて、紗代を筆頭に数名の会計係が教室で待機し、買い出し部隊の帰りを待っているのだ。
「領収金額540円、おつりが460円…確かに1,000円になるわ」
「文化祭の会計係も大変ね。私たち買い出し部隊は、買うものを買って、領収書を持ってくればいいだけだけど、会計係は渡した金額と領収書の金額におつりをプラスした金額を合わせないといけないんだから…」
「まぁ、美琴ちゃんみたいにみんなちゃんとやってくれてるから、問題はないんだけどね」
「でもさ、これと同じようなことを会社の会計係の人もやるわけだよね…」
「例えば、さっきの領収書が「消耗品」の領収書だった場合…
(借方(左側))消耗品費540
/
(貸方(右側))現 金540
みたいな仕訳を毎回毎回やってるのかなぁ…」
「美琴ちゃん!それはないと思うよ。ほら、ちょっと前の簿記の授業で「インプレストシステム」ってやったの、覚えてない!?」
「インプレストシステム…確かに聞いたことあるような気が…あっ!「小口現金」だ!!」
「そう!それそれ」
「確か「定額資金前渡制」のことだったよね!」
「小口現金係っていう係を設けて、金額の小さい支出の1週間の概算額を先に渡しておいて、週末に小口現金係が各費目毎に集計して仕訳を行い、使用した分だけ小口現金を補充するってシステムね」
「制度を採用して、お金を小口現金係に渡した時は
(借方(左側))小口現金
/
(貸方(右側))現金
って仕訳をして、小口現金係が使用した分をまとめて報告してきた時は
(借方(左側))消耗品費
交通費
通信費
/
(貸方(右側))小口現金
って仕訳になるんだったよね」
「そして、使用した小口現金が補充された時は、また
(借方(左側))小口現金
/
(貸方(右側))現金
って仕訳をする、と。報告を受けた時に、現金で直接補充する方法もあるようね」
「この方法なら、数百円単位で仕訳を行う必要がないから、仕訳を行う経理係の処理もショートカットできそうだよね」
「そうだね。そうそう。この前、煉先輩に1級の問題を見せてもらった時のこと、覚えてる!?」
「部活が終わってから、煉先輩が見ていたあの問題だよね」
「あの時の貸借対照表の左上を見た時、美琴ちゃん、何か気づかなかった!?」
「左上って言ったら、「資産の部」が記載されている場所だよね…左上、左上…あっ!!「現金」って記載が無くて「小口現金」が筆頭に書いてあった気がする!」
「そうなの!確かに「小口現金」が筆頭に書いてあって「現金」って記載はなかったの!」
「あの時は「何でかなぁ~」って思っていたけど、もし会社が取引先と「現金」での取引を一切していなくて「小切手」や「手形」「銀行振込」だけで代金の決済をしていたとしたら…」
「会社に必要な現金は、従業員が持ってきた消耗品の領収書や近くに出張に行った時に支払う交通費だけで済む…つまり「小口現金」だけあればいいってことになるね!」
「そういうこと!最近の検定問題は、実務により近くなってきているって戸山先生も言ってたし、大きな会社になればなるほど、現金は小口現金だけでいいってことになるんじゃないかな。」
「会社に大量の現金を用意しておいて、建物が火事になって全部灰になっちゃいました…じゃ困るしね!」
「ただいま~なんだかスーパーがすごい混んでて遅くなっちゃった…三枝さん!精算お願い!!」
「紗代!出番みたいね!!」
「そうみたい!」
「私は早速買ってきたものを使って準備を進めるから、紗代も頑張ってね!」
「美琴ちゃん!ありがとう!!」
chapter 21 に続く