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美琴 Accounting!! 簿記の基礎知識講座  作者: 剣世炸
3級商業簿記編
21/74

chapter17 「減価償却」って何!?

「この体育館も、大分ボロが出てきてるよなぁ…雨の日とか、雨漏りが絶えないし…」

 ある日の放課後、私と紗代が体育館の前を歩いていると、尾沢先生が体育館を見て呟いていた…

「尾沢先生、こんにちは!」

「嶋尻さん。それに三枝さんも」

「先生、体育館に何かあるんですか?屋根の上にボールが飛んで行ってしまったとか…」

「野球少年じゃあるまいし…そんなことはしないよ…」

「そうですよね…」

「…嶋尻さんと三枝さんは、この体育館を見て、どう思う?」

「まぁ、それは年季の入った体育館だなぁって思います」

「紗代…随分と気の利いた表現だね…」

「そうだよな!2人もそう思うよな…俺もけやき商にきて数年になるが、着任したその年からずっと、都に「建替え依頼」を出しているんだが、なかなか建替えてもらえなくてな…」

「確か「築30年」でしたっけ!?」

「そうなんだ。もうとっくに「減価償却」は終わっているだろうに…」

「ゲンカショウキャク?」

「嶋尻達は、まだ簿記で減価償却についてはやっていないのか?」

「そういう処理がある、ということは教科書を見て知っていますが、授業ではまだ習っていません。」

「そうだったか…まぁ、いずれ戸山先生の授業で触れるとは思うが、減価償却っていうのは、建物・備品・車両などの「固定資産」の価値を強制的に減らすことを言うんだ」

「売却した時に、差額を「固定資産売却損」「固定資産売却益」として計上する資産ですね。あれっ?同じ固定資産でも「土地」は減価償却しないんですね…」

「土地は、毎年資産価値が減るものではないから、減価償却はしないんだよ」

「価値を減らして償却するから「減価償却」…う~ん「償却」って言葉は始めて聞く言葉だな…燃やす方の「焼却」ではないですし…先生、「償却」ってどういう意味なんですか?」

「償却には「資産の原価を将来に渡って費用配分する」という意味があるんだ。つまり、固定資産を購入した瞬間から、将来「減価償却」という費用が発生することが確定する、という訳だ」

「資産の原価を費用分配する?」

「まだ嶋尻達にはこの説明は早かったかな…それじゃ、こんな例はどうだろうか?『1年前に12万円で購入したパソコンを、決算日の翌日に1万円で売却し、代金は月末に受け取ることにしたとする』この時の仕訳は?」


「(借方(左側))未収金     1万円

         固定資産売却損11万円


 /


 (貸方(右側))備品     12万円


になると思います」

「正解!でも、普通パソコンって、購入して使い出した瞬間に半値以下になるよな。それが分かっていて、備品を12万円にままにしておくのは、どうだろう?」

「確かに、価値が減っているのが明白なのに価値を減らさないのはおかしいですよね…」

「だろ!そこで「減価償却」の登場!という訳だ。減価償却には「耐用年数」(※1)と「残存価額」という言葉が出てくる」

「「耐用年数」とは、各固定資産毎に国税庁が定めた年数のことで「おおよそその年数は使用できると考えられる年数」のことだ。そして「残存価額」とは、耐用年数終了後にその固定資産に残される資産価値のことなんだが、平成19年の税制改正で、平成19年4月1日以降の取得した固定資産からはこの残存価額という考え方が廃止されたんだ」

「ただ、現段階で平成19年以前に取得した備品や建物が現存しているから、簿記の世界から残存価額という制度は取り除かれていない。テストや検定の問題をよく見て、残存価額が設定されている固定資産かどうかを判断しないと駄目、ということだ」

「耐用年数と残存価額については分かりました。それで、減価償却の金額を計算するにはどうすればいいんですか?」

「その年の減価償却の金額を計算するには、固定資産の取得原価から残存価額を差し引いて、それを耐用年数で割ればいいんだ。


計算式で表すと


(取得原価-残存価額)÷耐用年数


だな」

「残存価額は、多くの場合「取得原価の10%」とされていることが多い。よって…


取得原価×0.9÷耐用年数


でも算出できるんだ」

「取得原価の10%を計算して、取得原価から差し引くよりも簡単ですね!0.9は90%という意味ですから!!」

「尾沢先生!さすがです!!」

「それじゃ、さっきの12万円の備品の例で決算に減価償却を行った場合のことを考えてみよう。その備品の残存価額は0で、耐用年数が3年だったとすると、決算で備品の減価償却額はいくらになる?」

「12万円を3年で割ればいい、ということですから…4万円です!」

「正解。仕訳をすると…


(借方(左側))減価償却費4万円



(貸方(右側))備品   4万円


ということになる」

「減価償却を行って、備品の価値が減りましたね!」

「さて!12万円で購入して、決算で4万円の減価償却を行った備品を決算日の翌日に1万円で売却すると、仕訳はどうなるでしょうか!?」


「(借方(左側))未収金    1万円

         固定資産売却損7万円


 /


 (貸方(右側))備品     8万円


になります…」

「あっ!さっき減価償却していなかった時は、固定資産売却損が11万円発生していたのに、今回は7万円で済んでますね!」

「そうだろ!減価償却を行ったことで、固定資産を売却した時に発生する固定資産売却損の負担を、前の会計期間に負担させることができた、という訳だ!」

「減価償却って、頭が良いですね!!」

「勉強すればするほど、「簿記」ってよくできた制度なんだなって思います♪」

「俺もそう思うよ!…おっと、もうこんな時間か…さて、俺も現状をぼやいていないで、もう一度都へ提出する書類をこしらえて、体育館の建替依頼を出してみるとするか…」

「先生!頑張って下さい!!」

「それから、ありがとうございました!!」

「おう!2人も気をつけて帰れよ!」

 この後、尾沢先生が提出した書類が許可されたためか、私たちが高2の時に体育館の建替えが始まり、高3になってからは新しい体育館での授業が始まったのでした。


chapter 18 に続く


※1 国税庁ホームページ https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34353.php

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