chapter10 「仮払金・仮受金」って何!?
ある日のパソコン部の部活終了後…
「今日も疲れたねぇ~」
「そんなこと言って、美琴ちゃん。結果は絶好調だったじゃない!」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「そう言えば、この前の日曜日に椚商業でやった練習試合の時の領収書、今日が提出期限だったよね」
「500円までだったら、学校がお昼代を出してくれるって、あれだよね?」
「それそれ。美琴ちゃん、無くしてない?」
「大丈夫!財布の中に折り畳んで入れてあるから」
「「領収書と現金を引き換え」ってことだけど、マネージャー長の鳳城先輩、その準備で大変そうだよね…」
「消費税のせいで、¥500ピッタリな領収書を持ってくる人は少ないからね。¥500を先に渡して、領収書とおつりを返すじゃだめだったのかな?」
「美琴!いいところを突いたな!」
「煉先輩!」
「部長!いい所を突いたって、どういうことですか?」
「美琴たちは、簿記の授業で「従業員の出張に際し、旅費の概算額を渡した」なんて仕訳を習っていないか?」
「はいはい!それやりました。従業員が出張先で交通費や食事代、宿泊代をいくら使うか分からないから、大体の金額を仮に払っておくって、あれですよね。概算額を仮に払った時は…
(借方(左側))仮払金
/
(貸方(右側))現金
って仕訳になります♪」
「従業員が出張から戻って、領収書に基づいて旅費が確定し、現金を返された時は…
(借方(左側))旅費交通費
現金
/
(貸方(右側))仮払金
って仕訳でしたよね」
「その通り。今回、鳳城は遠征する部員分の500円玉を用意できなかったから、後日、領収書と引き換えに現金を渡すってことにしたらしいけど、本当は、簿記の「仮払金」の処理みたいに、先に概算額である¥500を渡して、おつりと領収書を後から回収するって方法にしたかったらしい」
「私たちが考える以前に、鳳城先輩も考えていたんですね」
「簿記には、仮払金に似た勘定科目で「仮受金」っていうものもありますよね」
「「仮受金」は、「仮に受け取ったお金」のことで、従業員が出張中にお金を送金してきたんだけど、そのお金が何なのかが分からない時に使用する勘定科目だな」
「携帯電話を持っている人がほとんどの現代で、そんなことってあるんですか?」
「ないとは言い切れないだろうな。「暇つぶしでゲームやり過ぎて携帯の電源が落ちてて、充電もできない。近くに公衆電話やコンビニもない。やっと見つけた頃には会社の営業時間が終了していた」とかね」
「美琴ちゃんも、スマホ使い過ぎて、部活の時間の頃には電源落ちてること、多いよね…」
「ちょっと紗代…余計なことを…」
「(美琴の携帯って、確か先月出た最新型のはず…どんな使い方したら部活前に電源落ちるんだ…)」
「と、とりあえず、私の携帯の話はいいとして、とにかく、何らかの理由で従業員が出張中にお金を送ったけど、それが何なのかを伝えられなかった時に使うってことですよね。従業員が当座預金に入金したとすれば
(借方(左側))当座預金
/
(貸方(右側))仮受金
って仕訳でしたよね」
「従業員が連絡をよこして、当座預金の入金が例えば売掛金の回収だったと判明したときは
(借方(左側))仮受金
/
(貸方(右側))売掛金
って仕訳になります」
「2人とも、仮払金と仮受金の処理は完璧だな」
「ちなみに、決算の時は「仮」と名のつく勘定科目は、例外なく0にするから、仮払金と仮受金も原因をはっきりさせて、残高は0にするぞ。決算で、会社の成績が出る時に「とりあえず」は通用しないからな」
「確かにそうですよね。「とりあえず」が通用するなら、簿記で成績なんて出す必要ないですもんね」
「そういうことだ」
「…」
「…そう言えば、美琴はまだ遠征の時の領収書、精算してなかったんだよな…」
「はいっ。財布の中に折り畳んでありますけど、それが何か?」
「………………………………………………」
「(無言と視線の圧力が…)」
「煉先輩!?」
「どうやら困っている人がいるみたいだから、その領収書、早く精算した方がいいと思うぞ…」
「???」
「…」
「???」
…
chapter11 に続く