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アリアドネの赤い糸  作者: ROGOSS
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糸を紡ぐ者

 耳に吹き付ける風の音。瞼を閉じているはずなのに、何かが爆ぜる閃光がなだれ込む。


「起きろ!」


 その声が誰にかけれられたものなのかが最初は理解できなかった。

 やがて、それが自分にかけられたものなのだと理解すると、四肢に力を込めた。どうやら、地面に倒れているようではあるが、幸いにも無傷なようだ。


「俺に言っているのか……?」

「それ以外誰がいるんだ! ボサッとするな! 走るぞ、いけるな?」


 俺の返事を待つことなく、声の主は俺の手を引いて走り始める。

 銃声と爆音が相変わらずあたりで鳴り続けていた。

 やがて、薄暗い路地の一角にある階段を駆け下りると声の主は止まり、スイッチを押した。地鳴りと共に降りてきた階段への道が分厚い壁で塞がれる。


「この地下施設までは、奴らも追ってが来れないはずだ。とりあえず、一息つくか」

 

 声の主はそう言うと地べたに座り込んだ。あまりにも急な展開の連続で気がつけないでいたが、銃を持っていたらしく、それもまた地面に置いた。どうやら、こちらに敵意はないようだ。


「お前、どうしてあんな場所で倒れていたんだ?」

「寝ていた……? 俺が……?」

「そうだ。男が一人倒れていて、しかも治安部隊に取り囲まれつつあるって聞いたからわざわざ助けに行ったというのに……」

「それはすまない」

「そこはありがとうだろ。あぁ、クソ、蒸し暑いな」


 声の主は頭につけていたバンダナを取る。そこでようやく、声の主が女性であることがわかった。バンダナが顔に陰を作り、元々短髪だったからだろう、まったく気がつくことができなかった。


「……本当にわからないのか?」

「あぁ……わからない。すまない」

「はぁ……名前は?」

「名前……ササキ、ササキだ」

「なんだなんだ? 名前を言うのも精一杯って感じだな。まぁ、いいか。ササキだな。私はエミ。よろしく」

「よろしく」


 差し伸べられた手を思わず握リ返す。

 エミはよいしょと声を出しながら立ち上がると、一人歩き始めた。しばらく進み、俺がついてきていないことに気がつくと、無言で手招きをする。その手に導かれるかのように俺も歩き始めた。歩きながら、自分の姿を改めて見る。黒い戦闘服はエミの着ている物と同じようだ。だが、武装はしてないように思える。

 俺は倒れていた…?

 その事実に疑問を浮かべ、考えを巡らせるものの答えなど出るはずもなく。兎にも角にも倒れていたという事実だけを今は認めるしかないようだ。

 

「ついたよ。天使の落日」

「リンゴは何色だ」

「青以外にありえる?」


 いつのまにか地下道の最深部にいたようだ。目の前の鉄の扉がゆっくりと開く。中から巨体の男が白い歯を見せながら笑いかけてきた。


「おかえり、エミ。それと…」

「ササキよ。笑っちゃうのが、この人、どうして自分が倒れていたのかすらわからないみたいなの」

「なるほど。今は混乱してんのかもな。徐々に思い出していけばいいさ。さぁ、入った入った」


 中に入るとそこには無機質な廊下がさらに続いていた。

 先ほどと違う所は、廊下の両脇には物騒な武器や弾薬が並べられている所だろう。それを整備している者もちらほら見ることが出来る。


「ようこそ。我らがレジスタンス、イーグルの支部へ」

「イーグル……?」

「本気で言っているの? 私、少しショックだわ。この世界でイーグルって結構有名なレジスタンスだと思っていたのだけども」

「記憶喪失くん相手に何を望んでいたんだか……いいじゃねえか! ここに連れてきたってことは、イーグルに入ってもらうんだろ? これからたっぷりと活動って奴を目に焼き付けてもらおうじゃねえか」

「聞いてもいいか?」

「どした?」

「レジスタンスってなんだ……?」


 巨体の男の笑みが凍り付く。

 その目はそんなことも知らないのかと呆れているのがわかる。それでも、知らないものは知らない。考えても自分が何者なのかがわからない。ササキという名前だけが俺の唯一の証明できるものだった。

 巨体の男は乾いた笑い声を続けると、腰に手をあてたまま動きを止めた。


「えーと名前は?」

「ササキだ」

「ササキだな。俺の名前はゴートン。よし、ササキ。俺が基礎中の基礎を教えてやる。この世界は恐怖帝(きょうふてい)に支配されている。そして治安部隊は恐怖帝直属の部隊だ。その支配は徹底的だ。俺達人間の人権なぞ平気な顔で無視しているだろう。俺達レジスタンスはその政権を失墜させるために活動しているってわけだ」

「つまり、恐怖帝を倒そうとしているわけか」

「その通り。お前は記憶が無いんだろ? これは推測だが、お前は元レジスタンスなのかもしれない。恐怖帝に逆らった奴は、記憶を消されて放り捨てられることがよくあるんだ。災難だったな。命あっただけマシなのかもしれないが」

「俺が…レジスタンスだったかもしれない……」


 恐怖帝、支配、治安部隊、元レジスタンス……わからない単語を連続的に聞かされる。

 少なくともゴートンは親切心から俺にこの世界の基礎って言う奴を享受しているようだ。悪い奴のようではない。

 自分の存在理由。この世界の実情。まだまだ知るべきことは多いようだ。

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