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The Boys of Late Summer, 200X. - 2

本日も二話連続UPしております。(一話目/二話中)

「穂高、まだいる?」

 ドアを開けたらすぐ目の前に置いてあった蚊取り線香はまだ一巻きくらい燃焼が残っていて、燻り続けていた。あーあ……、もう帰っちまったのかな。でもまだこの南京錠が開いたままなわけだし、どっか行ってるだけかな?

 この前穂高がホームセンターで買ってきた南京錠。これとU字フック釘で施錠工事を考えていたらしいので、先日俺も穂高と一緒に作業をしたのだ。ちなみにこのプレハブ自体の施錠はとうの昔にぶっ壊れている。

 ついでに俺も学校の廃品置き場にあった机と椅子のセットをバレないように敷地外から大回りをし、ここに運び入れた。窓際にちょうどよく納まり、穂高城はもうすっかり部屋らしい見栄えだ。

 その日は鍵の設置も完璧にでき、それはもう俺も穂高も大満足だった。すげえ喉が渇いたので帰りついでに穂高とチャリで近くの自販機に寄って、チャリにまたがったままスポーツ飲料をがぶ飲みし、陽なんか暮れてどっぷり夜になっちまってたけど結局下らねえことを喋り続けていた。昨夜見た変な夢の話とか、最近食べた美味いものとか。

 あいつと話をしてると時間の経過がほんと早い。そういえば穂高城以外であいつと話したのってそれが初めてだったな。



 中に入り、切れそうな蛍光灯を点ける。

「まあ……もう七時だし……」

 ピカピカに磨かれたソファに腰をおろそうとした時、ドアがスムーズに開いた。

「……藤沢。遅かったな」

「おっす」

 夏休みに入ってから俺は超気楽にサーフボードメーカーのロゴが入ったサーフパンツと黒タンクの服装だけど、こいつはいつも大体ボタンシャツにジーパンだ。まあ、別にいいけど。着崩さねえし、坊ちゃんみてえだな。あ、もしかして実は坊ちゃんなのか……?

「お前今日は来ないのかと思って、夕飯買いに行ってた」

「わーり。サーフィンやりすぎて時間忘れてたんだ」

 見ると穂高は片手にスーパーの袋を下げていた。

「ふーん」

 そう低い声で言いながら穂高が袋から出したのは割引シールが貼られた刺身の盛り合わせに、白米。……変なチョイス。ご飯はスーパーで既に温めてきたらしい。間食の買い食いって感じじゃなくて、リアルな夕飯じゃん。

「夕飯、家で食べねえの?」

「……いただきます」

「あ、どうぞ」

 聞いたらマズい系だったみたい。


「……」

「……」

 窓際に置いた机で黙々と夕食を準備するそいつと、ソファに寝そべる俺と、外からは虫の音。


「穂高はサーフィンやる? やったことある?」

「ねえよ」

「サーフィンはいいぞ。邪念が海によって流されるぞ」

 穂高は湯気がモックモクのご飯の上にトレイからドバッとひっくり返すように刺身を置いて、割り箸を割ったら盛大に失敗。一.五本と〇.五本の箸になった。邪念……、と箸を見ながらつぶやいていた。

「まあ……モテるよな、サーフィンできると。女子もサーフィンしているお前を見にわざわざ休日に海岸まで行ったりしてるし」

 そう言われて、ああ、そういえばたまに海岸線の道路から同じ中学の女子たちが自転車で来て海を見ているなと思った。俺きっと見られてるわ……と思って毎回変に真面目に波乗りをする羽目になってたけど、あれって俺が目的だったの?! マジで。俺……すげえな。今度、誰が来ているのかよく見てみようっと。

「穂高にも教えるぜ、道具なら一式貸すし。そうだな……、ビギナー用のサーフポイントにするよ。んーと、朝四時半集合とかだけど。七時過ぎると混んできちゃうからな。俺はプールガーデン側のポイントで親父と一緒にほとんど毎朝やってるんだ」

「ふーん……」

「あーでも親父のほうが教えんの上手かも。自治体のボランティアでチビ達にボディボード教えてるし。階段が近い海岸沿いに一件だけサーフショップあんじゃん。あそこのジュンさんっていうオーナーと俺の親父が仲良くて、あそこを拠点にしてやってんだ」

「親と仲いいのな」

「そうでもねえけど。サーフィンの時だけは一時休戦パターンが多いな、はは」

「……んー」


 ……なんか……、今日は盛り上がんねえな。


「穂高、刺身に火が通ってきてるぞ」

「げっ、うわ、マジだ」

 ご飯がホカホカすぎて、穂高がマグロの赤身を裏返したら綺麗に白くなっている。どんだけレンチンしちゃったんだよ……随分ぼーっとしてるな。こいつはいつも隙が無い分、ちょっとの違いが目立つ。

「穂高、俺今日はCD持ってきたぜ。何聴く?」

 まあ食事中だしどうあろうが自由だよな。俺はリュックを開けて持参したCDをこいつの前に持っていき広げてやった。

「っ! ミュージックソウルチルドじゃん……! え、これ日本でまだ売ってなくねえ?! ラジオで流れてるだけじゃん?! 藤沢どうやって買ったの?!」

 おお、途端に元気になった。

「ふっ……、さっき話したジュンさん。昔ロスに住んでてさ。その人よくアメリカに行くから頼んだら買ってきてくれたんだよ! でも向こうのCDだから歌詞カードとか、なんもついてねえ」

「すげえ……! 藤沢、これあとでロムに落としてもいい?!」

「いいぜ。とりあえず聴こうよ! つか穂高、醤油、せっかくのシャツに跳ねたぞ」

「やべっ! ……あ、いいや」

 いいのか。俺の母ちゃんなら今すぐ脱げ洗えと言いそうな大きさの染みだぞ。いつもなら即、除菌スプレーかウェットティッシュが登場しそうだけど。


 しばらく城の中ではCDの音だけが響いていた。ミュージックソウルチルドというのはアメリカの男性歌手の名前で、デビューしてやっと全世界ヒットが出始めたばかりの、日本ではまだ一部のラジオでしか掛からないアーティストだ。俺たちの好きなネオソウル系の歌の中でもとりわけ物憂げなメロディが多く、すごくいい。俺はバラードよりもアップテンポの曲のほうが好きだ。多分、穂高もこの七曲目でクると思うんだけど…、

「藤沢、七曲目やばいな……」

「だろっ?! お前ならここで引っ掛かるだろうなって思ってたよ。やばいよな。この曲もう一回聴こう」

「ん」

 ふっ、読みは当たったぜ。



 それから一時間以上経ったかな。

 すっかり夜になって、穂高の夕飯は白米を少々残したまま終わり、いまはソファやデスクやらで各自ゴロゴロしながら音楽をただ聴いている。


 他の奴ら相手の時のように頑張って話そうとしなくても、楽に時間が流れていく。

 蝉じゃない何かの夏の虫の大合唱と蚊取り線香の煙に囲まれて、好きな音を流したっきり、自分のスペースを自分のみの次元とし。まるで一人きりであるかのように、でも穂高の存在はそこに在る。


 落ち着く……。

 鼻ほじっても屁こいても平気そう。……いや、ダメだな。この秘密の城に対して失礼だ。



「なあ。好きな音楽聴いてだらだらすんのって最高じゃね?」

 ぼー……と外の薮を見ていた穂高に話し掛けた。

「ん」

 上の空。

 外になんかあんの……? 気になって一緒に窓から景色を覗いたけど、ただの草薮だった。しかも暗いからほぼ何も見えない。

「藤沢は大人になったら何になんの?」

 穂高は外に視線を向けながら俺にそう言う。……唐突だな。

「んーと……」

 これは真面目に答えたほうがいい質問か? それともふざけたほうがよいか。


 ……穂高と上辺だけの会話をした記憶がねえから考えるまでもないよな。


「俺は、自分の秘密基地をつくる」

「…………そう」

「真面目に答えたんだけど」

「え」

「大人になったらこういうさ、テンションあがる秘密な場所を作って、で、ずっと寛ぎたい」

「つまりニートか」

「違うわ」

「あ、悪い、ヒモか」

「だから違うっつの。……まぁ……、いつかはわかんねえけど、自分の店とか。やりたいなって」

「…………」

「…………」

 よそ見しながらの無言かよ。恥ずかしいだろうが。真面目に返答した俺は一体。


「なにやんの? 店」

 ふ、と穂高がこちらを向いた。

「……いや、決めてない」

「ふーん」

 で、また、外を向いてしまう。

「俺だけ言って終わり? お前は?」

「……」


 今日こいつ無言多くね?


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