Late Summer, 201X. - 2
本日は二話連続UPしております。(一話目/二話中)
カウンターを離れて、小窓から外苑通りの木々を見ていた。外は綺麗な夕焼けが広がりつつある。シェーデーという懐かしい名前が出てからふと、心の中で穂高城と勝手に呼んでいたあの小屋を思い出していた。
……いやぁ……、アホだったわ。
「なあ、晶が持ってきたこのチーズ、美味いな。んー……、これはブランデーを合わせたい」
烏龍茶をもらいに行こうと振り向いたら酒の陳列棚を見ながら湊が考え中。
「カルヴァドス! 仕入れたって言ってたよな」
「は? 開けねえよ。開けてほしけりゃ普通に金払え」
「払うから。開けましょう湊さん! ここは気前よくパァッと! お盆だし!」
「盆との関係性が見えん。つーか駄目、開店前だし。一つ、顧客が知る前に内輪でボトルを開けてはならぬ」
「はぁーー? うそーー初耳だよーー侍かよーー」
「……ほんとお前いっつも元気だよなあ。羨ましいわ、そのブレない精神」
チーズをつまみながら、レジスターの準備に入った湊が俺を見ながら苦笑い。
「…………そうか……?」
思わず手で口元を隠した。お子様ってこと?
まあ、異論はないです。
「そうだよ、昔っから。……何聴く? そろそろなんか流すけど」
「あ、今日はタブレット? 最近BGM使用料の行き先が色々あるから、俺も専門業者のプレイリストに任せようかな」
「な。でも金より環境優先だけどな。好きな音のもとで働けないならそもそも店がいらん」
うっわ、超同意。と思いながらブラックオリーブを口にポンポンポンポンと放る。
「んーと……お、ゴールデンクラッシックソウルだって。ジョネット、アーリヤ、アシェンティ、ローラン。どうよ」
湊がタブレットを見ながらプレイリストを探している。んー、いいねそのリスト。中二病をくすぐられるね。
ちら、と俺を見るのでグラスに烏龍茶を注ぎながらサムズアップしておいた。
「そういう湊は、大分変わったよなあ」
と話しながらも、あっ、やばい。せっかく持ってきたオリーブをまた食べ過ぎた。
「んー? そうか?」
「ああ。昔はずっと感情が平坦だったよ。怒怒哀怒みたいな」
「は? なに? ドドアイドって」
「今は、ていうか大人になって会ってみたら、なんつーか、穂高は人間っぽくなってた」
「スルーかよ。……つか穂高って言うなよな……ドドアイド……何語? スペイン語……? 」
なんか湊がぶつぶつ言ってるけど俺は急いでオリーブの激減をごまかすために薄切りのチーズを丸めて、オリーブを爪楊枝で一緒に刺す。ほらピンチョスですよー、チーズの枚数だけのオリーブはありますからねー。という。
「……まあ、あの中三ん時と比べたら俺も大人になりました。もう二十九歳の男の子っすから」
そんなことを言いながら湊が曲を決めた。
お、こだわりの高級スピーカーから流れてきたのは初っ端からミュージックソウルチルドですね。最っ高。
「だよね。俺、当時湊のこと侍だと思ってたもん」
「ふはっ。やめろ、いろんな黒歴史思い出して笑うから」
「だな、やめましょ。互いのために」
「……」
「……」
「……なあ晶、これ聴くとさ」
「刺身でしょ?」
ちょっと目を大きくして、その後、ふ、と湊が笑った。