プロローグ
今から十年前。
古から神話の世界で数多くの人々から崇められてきた〈龍〉が、現世に現れた。
地に住まう「地龍」と、空に住まう「飛龍」が一体ずつ、同じ地に現れた。
二体の龍は日の照る方向にゆっくりと歩き、そして消えた。
歩いて行った方向に人はたくさんいたが、ついに人は襲わなかった。
その情報が周辺の国々に知れ渡るのに、二日もかからなかった。
神話の生物が何故この世に現れたのか。訳も分からないまま三年。
龍は大きなものから小さなものまで様々な生態系で確認され、五年目についに新種の生命体として、世界で登録された。
しかし、五年たっても、龍についての細かいことはわからなかった。
龍を崇めてきた宗教団体(――――以下、「思想家」と示す。)の長は「龍は底知れぬものだからこそ神聖なのだ。それを死体を集め研究するなど、なんと無礼な。」と言って、思想家以外の人間を否定した。
それでも龍に関する研究は続行された。
六年目には、龍のほとんどが解明され、段々とその生態系が明らかになってきた。
しかし七年目。
これまで人類に無害とされてきた龍に一人の人間が殺された。
龍が現れて七年。人が殺されるのは前代未聞だった。
さらに八年目には、ある国の集落が焼け、そこから一年でその国の半分は廃墟と化した。
そして十年たった今、二つの大きな島に分かれた連合国の片方の島の半分はもうない。
なんとか龍と友好な関係を築こうと試みる東の島・セミール。
龍にやられるのはもう懲りた。ここからは人間の反撃開始だと言い張る西の島・メシウス。両国の関係を不安に思う北西の列島・バリトルト。
思想家が集う島・メノモロン。
もはや形だけの連合国同士を不安に思うものは大量にいた。
この物語の主人公もその一人。
この謎めいた世界と迫りくる危機に立ち向かう少年「グレン」に定められた運命とは。
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