「異世界転生編 Ⅳ」
二十一世紀と現代日本を比べても交通手段は左程変わらないと個人的に思う。
精々、車が全自動になり量子力学が発展してテレポートをやっと生み出した段階。
我々が理想とするSF映画の世界観には残念ながらまだ遠い様子なのだから。
・・・・・・・とは言いつつアンドロイドやテレポーテーションを誰よりも良質で量産した張本人が俺自身だが。やはり周りの人からしたら大発明なのだろうか。それも後世に名を残すに値するほど。
俺ができるなら量子力学を専門とする研究所も作れるはず。そうじゃなくても未来の稀代の天才が開発するだろう。いや、実際現代にもいたはずなんだ。
・・・・・・それなのに発表されなかった。
「森の聖獣は大層俺を気に入ったらしく犬扱いしても怖くない件」
生後からまもなく6ヶ月が経とうとしていた。
ここまで生活してようやくロタリーゼでの暮らしが楽しく感じられた。色々な人との出会いもあったし、異世界ライフを赤ちゃんながら満喫していた。
・・・・・・・・・というのになぜ引っ越しする?
残酷に荷物は流れて行き、移動するのが俺ら家族だけになった。
赤ちゃんなので口出しもできず王都の東門に停められた馬車に乗ることに。
「・・・・・・・・・異世界の交通手段。魔法でどうにかならないの? 地球人7000000000人の夢が崩壊しちゃうって!!」
思った以上に異世界の文明は遅れている。魔法という概念があるのにも使わないのが非常にもったいなく感じる。もどかしい気持ちを抑えつつ道という道を通り終えていく。
向かう先=引っ越し先はロタリーゼ王国の東の地「オルド」。
周囲が山に囲まれ、動物や精霊たちが住処としていることで有名。なのだが、それは噂で納まっているらしく実際に確認した人はいない。正真正銘、この世界「グランドクウェイク」有数の秘境である。
未開拓の地「オルド」。なぜそのような所に引っ越すのか理由はわからないが何かしらの意図があるのだと自分で勝手に思い込んでる。
そう、だから道が舗装されてない獣道を進み、その先の崖を降りることさえ必要なことと信じている。
・・・・・・「フェミナ様、お嬢様の様子がいささかご機嫌が悪いように見えます。僭越ながら睡眠魔術を掛けてもよろしいでしょうか?」
荷台に繋がれている二頭の馬は断崖絶壁の崖だろうと容赦なく駆ける。運転手のお父さんはこの状況を楽しんでいるけどお母さんと俺ともう一人は愕然としている。特に俺にいたって言えば大声で耳の鼓膜をほど機嫌が悪い。このままいくと舌を噛んでしまう。
・・・・・・それを見た引っ越しに同伴した少女が睡眠魔法を掛けてくれた。
銀色の髪に紅い瞳の容姿は幼さの裏に確かな色気が備わってつい魅了される。会ったことはこれで2度目。しかし魅了されるのは今回が初めて。正体だってお母さんの親戚の娘ということ以外知らない。
「秘めたるものよ。目覚めるなら急いだ方がよろしいかと。・・・・・・・・・・・・貴女を慕う者たちの為にもお考えなされよ」
なのに彼女は俺のことを知ってる口調で耳元で囁いた。
そして魔法は言葉と同時に頭に巡ってしばしの間眠りに就いたのだった。
2
無事、オルドの別邸に到着した。道中崖を下りたり、鳥に追いかけられたりしたが無事。
お父さん曰く、「別邸の裏山にある洞窟をいち早く探検したくて急いだ。・・・・・・・すまん、冗談だ。楽しかったんだよ」と反省しているのか開き直っているのか極端な発言を聞かされた。だが、母さんは笑顔で家の地下にお父さんを引きずりこんだ。
俺はその光景を見た後、さっきの少女に抱きかかえられ裏山を散歩していた。
奥に進めば進むほど緑が深まる。さらに不気味なことに霧が出てくる。
俺はさっき掛かった魔法がまだ続いていたのでぐっすり眠ったまま。少女の方は平然と霧の中を歩く。霧が深くなってもその歩みは止まらずに草木を回避する。
「さーてと着いたか。霧に見せかけた幻術は想定内だよこんなもん。私を誰だと思っているのか。少しはトラップに工夫した方が面白い。それが聖遺物を保存する洞窟の醍醐味なのに」
草木を掻き分け、一般的にイメージする洞窟に入ると最深部からは緑、赤、、青と点滅を繰り返す光が見えた。少女は洞窟の有り様にいちゃもんを付けて前へと進む。
前に進む度に眩い光が顔に放射するので俺は少しずつ目を見開いていく。・・・・・・そして完全に目が覚めた。同時に最深部に着いた。
「・・・・これが。・・・・・これが女神イグラスの魂が入った神弓」
少女は震えた。神が残した聖遺物を前にして両手を顔に当てている。
3つの赤、緑、青の水晶がその前に置かれている。光が来たときより強く見えるのには理由があった。
・・・・・・少女は知っている。理由を。
俺が答えを物欲しそうな顔で少女を見つめる。すると少女も俺を見つめ返した。
「・・・・恨むなら運命を恨むといい。君は何も悪くないのだから。・・・・・・・この世界の内乱を未然に防ぐためにはこうするしかないんだ」
発せられた言葉の意味を理解できないままでいた。というかさっきから彼女の言ってることがさっぱりだというのにこれからすることもわからない自分は愚かなのだろうか。
今、彼女は自分の手首を果物ナイフで傷つけている。肌白い手首からは瞳と同じ紅い液体が流れる。それなのに痛がらない。怖がらない。逆に笑っていた。高笑いしていた。洞窟中に声が響き渡って耳を蝕む。
外の木々さえ揺れて強風が巻き起こる。風は洞窟に入り声を遮断する。すると彼女は負けじと声を発した。それはまるでアニメの魔法使いのように、それを憧れキャラをまねする思春期の少年の如く、言葉巧みに尋常ならざるスピードで。
「古の、神代の時代に生きる神。貴公の守った愛しき世界が今再びかの魔神により支配されゆく。ならば、貴公よ。今一度その力を振るい、グランドクウェイクを伝承の輝かしい世界へと導きたまえ」
・・・・・・体は宙を舞った。共明するように3つの水晶も浮く。
「器はここに。なればここに宿り、彼女と共存して悪しき魔神を殲滅したまえ」
言霊は時に実力以上の力を発揮させると聞くが、何よりの例を今体感している。
彼女の言葉が引き金として機能して彼女自身の魔力を高めている。というかなんで浮いてるんだ。
元々住んでいた惑星の重力が強いせいもあるが・・・・・・気持ち悪い。飛行機で乗り物酔いしたみたいな感覚で玉と一緒に飛ぶくらいならとっびきりの美少女とフライトデートがしたかったな。
・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・「諦めるのは早いのではないか、少年」
大量の魔力と3つの水晶、そして俺に反応して1人の美少女が姿を現した。
まあ、すぐにいなくなってしまったのだが。でもいなくなる時にものすごーく熱を帯びた気がした。
そのあとは光が収縮して洞窟本来の薄暗がりの場所に戻った。また、少女は脱力感に満ち溢れ横たわっていた。
・・・・・・・・・・・・「おいおい、これどうするんだよ。家に帰れないじゃないか」
・・・・・・・・・・・・「さすがの俺もこれはどうしよーもな・・・・い」
彼女の所にハイハイで駆け寄ろうとしたが赤ちゃん特有の睡魔には勝てない。
自分の無力さを身に沁みながら瞳を閉じた。
・・・・・・・・その場は無音になり、声が洞窟の音を支配した。声は幼い可愛らしい子が発したものともとれるし、1音1音が優しく、たくましく弾かれるハープの音色。それを紡ぎ、音に包み込ます演奏者の声にもとれた。
昨日は投稿できなくて申し訳ございませんでした。これからは毎度3000文字書くので投稿頻度は落ちてしまうかもしれませんが、ずっと読んで下さると幸いです。