フラグ回収、早すぎやしませんか?
日数は瞬く間に過ぎていった。その間に、俺への待遇は更にグレードダウン。食事が使用人の食堂になったり、訓練や講座に顔を出すと講師陣には「お前なんでここに居るの?」という顔をされるようになった。……武術に関しては気配遮断を優先してるから全く上達してないが、座学に関しては普通に付いていけてるぞクソばば——教官殿!
ここまで来ると流石にクラスメート達も、俺がハブられている事に気付く。まあ、服装が未だに学ラン——寝巻きはヴァルさんに都合してもらったから、ちゃんと洗濯はしてるぞ!——な時点でお察しではある。他の皆はだいたいこっちの国の衣装にチェンジしている。
「……なあ、お前の扱い悪すぎね? 俺らで今から抗議してくるわ」
勇者の早乙女よ、嬉しい事を言ってくれるな。だが——
「いやいや、それでお前らまで邪険にされたら元も子もないだろ。俺は今の所そこまで不満はねーから」
そう、実はあんまり不満は無い。俺は小市民。だだっ広い貴賓室は落ち着かないだろうし、毎日豪勢なご馳走三昧などごめんなのである。今の待遇が一番心地よいのだ。
自由に行動できるのも最高! みんなが強制的に受けている授業を、自分だけがたまにサボる背徳感っての? それも教師公認。マジ爽快です。
というような事を説明すると呆れられたが、「お前らしいよ」とのお言葉を頂戴した。これは褒められているのか?
「ごめんなさいね。先生も、お姫様や団長さん、教官さんにもそれとなく言ってはいるんだけど……」
甲斐先生も現状はよろしくないと思っているらしく、申し訳なさそうに告げてくれた。
「いや、俺のことわざわざ気にしてくれるってだけでありがたいっすから」
——俺は本当に仲間に恵まれている。
思えばそれがフラグというやつだったのかもしれない。
*
もうそろそろ実戦経験を積んでも良いだろうという事になった。今回の目的地は王国の保有する初心者用ダンジョンらしい。
そう、この世界にはダンジョンがある。規模はピンキリだが、全てのダンジョンにダンジョンマスターと呼ばれる存在が居るのが特徴。基本的に本能に忠実なモンスターがマスターで、放っておけば際限なく広がって行く。そのため、問答無用で攻略して潰すのが望ましい。
たまに意思疎通ができるマスターがいて、契約をかわす事で国などの保護下に入るダンジョンもあるのだが、今日行くのはその類だ。地下十階規模の一般的なダンジョン。
今まで放置プレイだった俺だが、何故か今日は強制参加だった。嫌な予感しかしない。なんとか気配遮断はモノにできたから、無事に帰れると信じたいが……。
地下一階、二階……と、順調に進んでいった。初心者用だけあってモンスターも大ネズミとか、ファンタジー定番のゴブリンだったりとかで苦戦のしようも無かった。正直、全員で潜る意味が見出せないくらいには楽勝だった。これなら生産職の連中だけでも攻略できるんじゃないかというレベル。……俺? 俺にはちょっと荷が重い。なんせまだナイフ使い慣れてねーし。
破竹の快進撃は、キリのいい地下五階まで続いた。そしてボス部屋の扉前。
「なんか如何にもな扉だなぁ」
緊張感のカケラもない声で早乙女が呟いた。そらー今までの勢い見てたら当然の態度だわな。今の戦闘職連中ならたぶん、初見でも中級ダンジョンくらいなら制覇できる。
「勇者殿、いつ何時危機が訪れるとも限らない。油断しないように」
引率で付いてきた騎士団長が早乙女をたしなめる。このおっさんも胡散臭いんだよな……。今まで稽古で面倒見てた連中の腕前が解ってないハズが無ぇんだ。初心者用ダンジョンでは生産職はともかく、戦闘職連中には物足りないとわかっているはずなのにこの念の入れよう。
ここは普通のダンジョンじゃ無いのかもしれない。