とある聖騎士の高揚
「なんだ、オレらの相手はガキ二人か。拍子抜けにも程があるぜ」
気付くと訓練場にいた俺と早乙女に、そんな声が投げかけられたのはすぐのことだった。
筋骨隆々ないかにも歴戦の猛者といった男たち十数人と、グレータービーストを従えた黒装束が一人。
「……もしかしなくても、これを乗り越えないと先に進めないオチ?」
顔を引きつらせながら聞いてくる早乙女。おいおい、お前勇者だろう? この程度のトラブルで青くなるなよ!
むしろ燃えてくるだろこのシチュエーション。
「好きで勇者やってるわけじゃなーいっ! ——『風雷神剣』!」
早乙女がヤケになって、いきなり技をぶっ放した。こちらを舐めきっていてとっさに動けなかった数人が、吹っ飛ぶついでに感電して動かなくなる。まあ、たぶん生きてるだろう。早乙女はそこら辺の力の配分は正確だし。
じゃあ、俺も仕事するとしようかね。
「オラオラ、オッサンども! まさかこんなジャブでビビってるんじゃないだろうなぁ?」
敵のヘイトを集めて、まとめて攻撃を受けるのが聖騎士の役割だ。壁役ってヤツだな。先に言っておくが俺は決してMではない。
気の短いおっさんたちが斬りかかってくるのを盾でさばいていく。さばいたおっさんどもを早乙女が一人づつ確実に仕留めて行くというコンビネーション。今までコンビでやってきた成果が如実にでている。新名や甲斐先生がいればもっと楽なんだがなぁ。
ただ、不気味なくらい動きがない奴がいる。
「グルゥゥ——」
グレータービーストと黒装束だ。
こちらにきた当初とは違って、今まで何体もグレータービーストは倒してきたが、アイツは何か違う気がする……というか何か覚えがあるな、あの気配。
「ちょ、石田! 気が散ってる!」
「おっと、悪い悪い。暇だったもんでつい、な」
ちょっくらあっちを意識しすぎたみたいだ。早乙女の悲鳴のような叫びで我にかえる。まずはこの傭兵たちをなんとかしないとな。
「このガキどもナメくさりやがってぇぇぇ!!」
顔を真っ赤にして斬りかかってくる傭兵。戦闘では冷静さを欠いた奴から脱落するという名言を知らないのか、このおっさん。どうやら最初に感じた『歴戦の猛者』という感覚は間違いだったようだ。
単純作業のような戦闘を終えて、残すは例のグレータービーストと黒装束だけになった。
「…………むぅ」
「石田、どーした?」
「あのグレータービースト、覚えがないか?」
「いやいや俺、魔物の区別とかつかねーよ?」
それもそうだな。まあ気にはなるが一旦忘れよう。今は戦闘中だ。
ただ、あちらは動く気がないようで、悠々と構えているだけ。
「……」
「…………」
動くきっかけが掴めず、にらみ合いが続く。
「…………早乙女」
「なんか嫌な予感しかしないけど、なに?」
「とりあえずお前、あいつに突っ込め」
あいつら、なんか挑発が効きそうにないんだよなー。俺、攻撃を捌くのは得意なんだが、そのせいか自分から仕掛けるのは苦手なんだわ。
「…………いや、まあいいけどさ」
なんか言いたそうながらもグレータービーストに突っ込んでいく早乙女。お前のそういうとこは好感が持てるわー。俺はあちらさんが動いてから動くとするかね。
「『蒼波斬』!」
素早く斬りつける技をチョイスするとは、速攻で終わらせる気か早乙女。だが相手であるグレータービーストの四足歩行も伊達ではなく、サッと避けられてしまった。
「石田、あいつ普通のヤツと違う!」
「今更かよ!? 俺、何回か言ったよなぁ?」
「素早すぎて俺一人だと攻撃当たらねー!」
援護はよ! と、催促してくる勇者。面倒くせぇ。「ここは俺に任せろ!」くらいは言ってくれよ勇者さま。自分から攻撃するの苦手だって俺、散々言ってるよな?
とはいえ、何もしないわけにはいかない。試しに黒装束のほうに仕掛けてみるか。
「グルォォォッ!」
「うぇっ?」
咄嗟に構えた盾に強い衝撃。早乙女と遊んでいたはずのグレータービーストが俺に突っ込んできたのだ。これは……弱点発見か? それからも黒装束を狙ってみると突っ込んでくるグレータービースト。
「うっわ、石田まじ外道」
「うるせーよ、役立たず勇者! 見てないで手伝え!!」
最終的にゴリ押しでグレータービーストにダメージを与えていったのだが、あと一息という所でピューっと黒装束が笛を吹いた。攻撃を避けつつ素早く黒装束に寄り添うグレータービースト。
なおも追撃しようとした俺たちを手で制止して、黒装束は言った。
「義理は果たした。ここで引かせてもらう」
「——は?」
「——はい?」
突然イミフな事を言いだしたかと思うと、俺たちが呆然としている間に奴らは逃げおおせてしまった。
「え、これ俺らの勝ちなん?」
「……たぶん」
最後の最後で消化不良もいいとこだな!?




