とある姉姫の奮闘
気がつくと、闘技場のような場所に転送されていました。確かに手を繋いだはずのリュージの姿はありません。他の方々の姿も同様に。
「リュージ!?」
彼だけが転送されなかったのか、それとも私だけが転送されてしまったのか……こうなってしまうと、真実はわかりません。
——と、そこに。
「他人の心配より、自分の心配をした方が良いんじゃない?」
声がした方に向き直ると——鞭を持ち、動きやすいように丈を短くしたドレスを着た金髪の少女の姿が。彼女はもしかして……?
「私が誰だか判らないという顔をしているわね?」
「まさか。貴女が出てくるなんて思ってもいなかっただけですわ」
彼女はミネリアーナ。この国の王女であり、血筋的には私の双子の妹になります。ちなみに私は母様似で彼女は父様似なので双子といっても、あまり似てはいません。
「一国の姫は戦えないとでも……?」
私の言葉にギリっと歪む顔。どうやら誤解をしているようです。
「姫君が時間稼ぎに出なければならないほど切迫しているこの国の現状に驚いているだけです」
「どちらにしても馬鹿にしているのじゃない!!」
なぜか余計に怒らせてしまいました。思っている事を伝えるのは難しいものですね……。
「それで? 私に何かしらの用があってここで待っていたのではなくて?」
「——ッ! そうだったわ。貴女に勝負を挑む!」
……意味がわかりません。なぜ彼女が私に勝負を挑む必要があるのでしょうか?
「どうして? って顔をしているわね?」
「門番の代わりだから……というならわかりますが、わざわざ私を指名する理由がわかりませんわ」
「簡単よ、私は貴女に恨みがある。それだけ」
恨み、ですか。とんと覚えがありませんが。
「ところで私、ダンジョンマスターですので手持ちの魔物を使いますが、貴女はお一人で戦うおつもり?」
「余計な心配ね。私にはお父様に貰ったオモチャがあるの。これで貴女の相手をさせてもらうわ!」
そう言った彼女の背後にゆらりと数体の人影が立ち上がった。のっぺりとした細長い顔の、まるで糸のないマリオネットのような人型を模した人形。
「私の魔力では二、三体操るのがせいぜいだけれど、貴女の相手にはちょうどいいでしょう」
「……魔術兵器の魔導人形! まさかそんな物まで用意していたのですか」
魔導人形は魔力が供給され続ける限り再生し、動き続ける兵器です。過去の魔王などによってほとんどが破壊されたと聞いていましたが、まさかアルスターに完全な形をしたものが残っていたなんて……。
「加減は無用ということですわね」
「……その余裕しゃくしゃくとした態度。ほんっとうにムカつくわね!」
恨みというのが何なのかは知りませんが、やたらと突っかかってくる彼女の態度には流石に腹が立ってきました。
「さっさと片付けてリュージを探すとしますわ! コボルトちゃん、スライムちゃん、やっておしまいなさい!」
まず颯爽と飛び出したコボルトちゃんたちが、二体の魔導人形を翻弄します。その間に残った一体をスライムちゃんが飲み込んで溶かしにかかりました。いかに魔力が続く限り再生し動き続ける人形でも、魔力の受信部分も含め全て溶かされれば再生のしようもないでしょう。
彼らが魔導人形の相手をしている間、私は彼女——ミネリアーナの相手をいたします。白兵戦は得意ではありませんが、あちらも魔導人形を制御しながらの戦闘。多少は融通が効くはずです。
「『プチバレット』!」
私は間断なく魔力の弾丸を打ち出す魔術をミネリアーナに叩き込みました。ですが、
「っー、いきなり容赦ないわね。でも、この程度でやられる私ではないわ!」
その手に持った鞭でいくらか弾丸を弾いたのでしょう、与えられたのは擦り傷。まずはあの鞭を何とかするのが先決ですね。
できれば避けたかったのですが、傷を負う覚悟を決めねばなりませんか……。彼女からすれば、こんなことを私が考えているなど噴飯ものでしょうが。
「もう終わり? 来ないなら、こちらから行くわよ!」
言うが早いか彼女の鞭がしなる。咄嗟に杖で払おうとしたのですが、かなり扱いに慣れているのか彼女の鞭が想像以上に重い!
「きゃっ」
耐えきれずに杖がはね飛ばされてしまいました。これでは次の攻撃がかわせない。
「あっははは! これで貴女を守るモノは無いわね!」
勝ちを確信したのか、容赦なく鞭を振るうミネリアーナ。くっ、甘かった。姫が相手ならば何とかなるだろうだなんて。増えていく傷に焦りが募る。私の独力では彼女には敵わないと認めなくてはなりません。
——ならば。
本当は出したくなかったのですが、出し惜しみをしている場合ではなさそうです。
「——おいでなさい、スケルトン」
このスケルトン、魔国でとある(・・・)条件を満たしたので出せるようになったモンスターです。出したくなかった理由は——
「そのスケルトンの装備——まさか!」
当然、姫なら気付くでしょう。スケルトンがアルスター騎士団の装備を身に付けている事に。そう、この個体のベースは騎士団長です。
「貴女、お母様だけでは飽き足らず騎士団まで私から奪うっていうの!?」
はて、どうやら彼女の触れてはいけないモノに触れてしまったようです。勝手にヒートアップするミネリアーナ。……というか母様に関しては濡れ衣もいいところだと思うのですが……聞こえませんかそうですか。
弁解しても今の頭に血が上った彼女には無駄でしょう。ならば。
「スケルトン、速やかに障害を排除なさい」
今は彼女を無効化するのみ!




