閑話・とある魔術騎士の場合
今回の語り手は某総帥さんのお付きの人です。そいつ誰やねんて人は、四章の閑話・とある総帥の場合を読めば出てきます! ちなみにまだ名前はない!
「リーヴェルト様。ジャックロットと魔国の間で和平会談が行われたとのこと」
そう告げると、主人は驚いた様子もなく「ああ、そうらしいね」とだけ返ってきた。すでにご存知だったらしい。まあ、結社の構成員は鎖国していない限りどの国にも潜り込んでいる……いや、魔術オタクはどの国にも存在していると言った方が良いのか。
「時期から考えて……リュージ君辺りがやらかしたって所かな?」
「和平会談の場には勇者をはじめ、リュージ様とシータ様の姿もあったとか」
「ほう? 無事に合流できたんだねぇ。それにしても……ちゃっかり和平会談に潜り込むなんてね」
とっくに知っているだろうに茶化した物言いをするのは主人の悪い癖だろう。
「リュージ様は魔国の代表者、シータ様はアルスターの姫だったとか」
「シータ君はまあ納得だよねぇ」
シータ様は所作に気品がにじみ出ていたので、ある程度は高位のご落胤なのでは? と予測を立てていたのだが……まさか姫君だったとは。それもまさかのアルスター。
「リュージ君は本当に何があったらそんな事になるんだろうねぇ」と、本気で考え込むリーヴェルト様。中々に珍しいことだ。
「ところでお前は、この先勇者達がどう動くと見る?」
「リュージ様と合流しているところをみると、召喚陣の情報は渡っているでしょう」
「魔国で進展があったのか、それともなかったかにもよるかな?」
「どちらにせよ、魔王討伐が無くなった以上、アルスターへ何らかの働きかけをするのでは?」
「普通に考えて報復だよねぇ。噂によると、アルスターはかなりやらかしてたらしいし?」
そこまでご存知なら、わざわざ私に聞くこともあるまいに。この主人は時々わざとこんな遊びをするのだ。
「アルスターもそれを警戒しているのか、国境を封鎖し始めたようです」
「……へぇ、勇者一団相手に徹底抗戦の構えかぁ。まるで魔王みたいだね」
「あの国に勇者を相手取る余力があるとは思えませんが……」
聞けば、魔国に派遣した最大戦力の騎士団は卑怯にも勇者を囮にして、無防備になった街を襲おうとするなどという蛮行を寸前で防がれ返り討ちにあったという。ターゲットは魔族の街ではあったが、その様子は人族の街とそう変わりない平和な街であったとか。
戦争状態ならまだしも、その前に不意打ちで街を襲うなど、盗賊とそうかわりはしない。騎士として最低の所業だ。
「戦力……か」
「どうされましたか?」
「いやね、アルスターの支部あるだろう? あそこ何年か前から、なーにか隠してる感じなんだよね」
「それは結社の理念に違反するのでは?」
「そこが微妙な所でね。……伝えたいけれど、難しい。みたいな感触でさ、口封じされてるのかもしれない」
秘密結社と名乗りはしているが、知っているものは知っている。それが『魔術の友』である。しかもその規模は大きい。各国の中枢にすら食い込んでいる。ただ、構成員は純粋に魔術を極めたいと願う研究畑の者が多いので、問題視されていないだけである。『魔術の友』は国境を越えた研究機関なのだ。だからこそ、武力には弱い。
「何らかの魔術兵器を秘密裏に製造しているというパターンでしょうか?」
「あり得るね。魔王討伐に出さなかったのは、人族同士の戦いでの切り札といった所かな」
となると、勇者相手にそれを出す可能性が高いと。
「気に入らないねぇ」
珍しくリーヴェルト様がお怒りになっている。おそらく、構成員に手を出されたことによる怒りと、研究結果を私利私欲で使われることへの怒りだろう。
「転送装置の準備をさせましょうか?」
「——頼む。私は出来得る限りの備えをしておく」
リュージ君たちにばかりいい格好はさせないよ! と、すぐにいつもの調子に戻られたが、これは凄まじく怒っていらっしゃる。アルスターよ、敵に回してはいけないお方を敵に回したな。




