閑話・とあるお姫様の場合
「ぐふぅっ」
何だか断末魔みたいな声をあげて気絶してしまいましたが、リュージならば大丈夫でしょう。根拠はないですが。ついでに、ぽひゅんとかわいい音を立てて神羅ちゃんも小さくなりました。
「あら、今回は消えないのですね?」
「キュル!」
マスターの指示がないと消えないダンジョンモンスターの召喚と似た原理なのでしょうか。……まあ良いでしょう。
「あの、シータ様。邪神様は……?」
「ただ少しばかりおかしくなっていただけですわ。目が覚めればいつも通りの面白おかしいリュージに戻っています」
格好良いとは思うのですけど、私どうもあの過激なリュージは好きにはなれません。いつもの「草刈り草刈り」とうるさいリュージの方が好きなのです。
それはともかく。
「アルスター騎士団の皆様には公の場でも証言していただくために、このまま拘束を続けさせていただきます」
「公の場でも、だと!?」
「私、つい今しがたあなた達の命を救ったのですがお分かりでない?」
私が止めなければ、あのリュージは牢ごと彼らを始末していたでしょう。何故急にあんな風になったのかはわかりませんが。
「だが、それとこれとでは話は別だ! 流石に公の場でなど——」
散々リュージに脅されても話さなかった代表の騎士が言い淀む。この騎士、本当に王国に忠誠を誓っているのですね。今生き残っている者達は、命乞いした者だけだと思っていましたが、中々に骨のある人物ではありませんか。
そうですか……。
「あまり使いたくはない手段ではあったのですが……」
「な、なにを……?」
「アルスター王流の命令であれば聞いていただける、という解釈でよろしいかしら?」
「——まさか」
心当たりがあったのでしょう。代表騎士の顔が青くなりました。
「私、シルルヴェータ・リツ・トゥ・アルスターが命じます。公の場での証言を」
「——なッ!? 本当に実在していたのか!!」
代表の騎士の驚きも分かります。自分で言うのも何ですが、都市伝説の類ですものね。騎士団長は業務上、事実を知っていたようですが。
「どういうことです副長!?」
他の騎士達が口々に代表の騎士へ詰め寄る。あの騎士、副長だったのですね。
「……今の王女が生まれた時、実は双子だったという噂があった」
ですがアルスター王家では、双子は不吉の象徴。姉姫が廃嫡され密かに処理されたとのお話があるとか。私もその話を聞いたのは物心ついてから——既にダンジョンマスターになった後でしたので、実際にどの様な尾ひれがついているかは存じません。
「だが、何故ダンジョンマスターなどに!」
「お母様の配慮ですわ」
せっかく生まれてきた命を害することが出来なかった女王ことお母様。丁度その時期に発生したダンジョンコアと私を魔術的に結びつけて後天性のマスターとすることで長らえさせたというのが本当の所。
その後も母は色々便宜を図ってくれたものですが、数年前に病気で……。いえ、これはここで語ることでは無いでしょう。
「居ないものとされたとはいえ、王流であることに違いは無いでしょう」
「クッ」
「真に王家を思うというのであれば、私利私欲で動く現王を糺すのも騎士の役目ではなくて?」
「…………少々考えさせていただく」
副長はそう言って黙り込んでしまいました。ですが感触は悪くはなさそうです。
「さて、では用事も済んだことですし撤退を——」
カツンと何かが転がって壁にぶつかる音が響きました。
「あわわわわっ、ちょっとした出来心だったんですぅぅっ!」
「ぼくたち何も! シータちゃんがお姫様だったなんて聞いてませぇぇぇん!!」
通路の角から転がり出てきたのは——サエキとユダでした。
「バッチリ聞いているではありませんか」
二人の正直さにため息が出ます。この分では異世界の皆さんに私の出自がバレてしまうのも時間の問題かしら。




