はじめて×を×した日
*残酷な描写があります
——願いも虚しく。俺は間に合わなかった。
見えたのは騎士団長の両手剣で斬られるシータの姿。
「シータぁぁ!!」
トサリと地面へ倒れ落ちる彼女の身体。
即座に飛竜から飛び降り彼女の元へと向かう。着地の衝撃が酷く、足にひびいたが気にしない。そんなことよりシータだ!
さらなる追撃を加えようとする騎士団長に、居合斬りで牽制をかけて彼女から引き離す。
「シータ! 大丈夫……なわけないよな、傷を治す魔術とかはっ!?」
「……リュージ、来てくれて、ありがとう」
「礼なんて言うな! 全然間に合ってねーだろ、これ!」
初めて聞く弱々しい声。血が止まらない。でも俺に治癒魔術は使えない。誰か、傷を治せる奴はいないのか!?
一人先行して来たから周りは敵だらけだ。シータの使役していた魔物の中にも治癒魔術を使えそうなのは見当たらない。
「くそっ」
悪態をつくことしかできない。
「……ほう、生きていたのか『旅人』」
「うるせぇ! 今はテメェに構ってる場合じゃねぇんだよ!!」
シータの顔から血の気が引いて、ただでさえ白い肌がさらに白くなっている。おまけに、握っている手が怖いくらい冷たい。生き物の手とは思えないくらいに。
「彼女と運命を共にする道を選ぶか。それもまたいいだろう」
騎士団長がなんか言ってるが、どうでも——
「リュージ、今……は、戦いの途中ごほっ、ですわ……よ」
——良くない。彼女も戦えと言っている。
そうだ、彼女をこんな風にしたのはアイツだ。両手剣を振り下ろすアイツの姿が見えた。とっさに魔断ちを構えて受け流す。
「クッ、受け流しだと!? 『旅人』風情が!!」
「旅人が剣術使えちゃ悪ィかよ!!」
刀でなぎ払うが、でかい図体のくせして俊敏に後ろへ飛び退かれて防がれてしまった。
「シータ、まだ生きてるよな!?」
——返ってきたのは沈黙。
「シータ……?」
地面に横たわった彼女はカケラも動かない。言葉を話す様子もない
「死んだか」
ポツリと呟いた騎士団長の言葉が理解できない。慌ててシータに駆け寄り脈を確認する。
……止まっている。
シータが死んだ? ウソだろ? 告白したばっかでこれからっていう時だったじゃねーか!
「安心しろ、貴様も同じ場所へ送ってやる」
騎士団長の声が嫌に響く。同じ場所?
「ふっざけんなぁぁぁぁ!!」
気づいたら全力でヤツに居合斬りをぶちこんでいた。牽制ではなく、殺すつもりの一撃。次いで間をおかずに接近してのなぎ払い。もう無我夢中で刀を振るっていた。
「ガハッ」
気付くと騎士団長が血だらけで倒れるところだった。
「遺言なんざ聞く気はねぇ。とっとと死ね」
容赦なく刀を首に突き立てた。心臓に、と行きたかったのだが鎧が邪魔だったのだ。完全に動かなくなった騎士団長。
初めてひとを殺したが何の感慨もない。
シンと場が静まり返っていたのだが、自分たちのトップが殺られたのをキッカケに残った騎士どもが正気を取り戻してこちらに向かってきた。
……うぜぇ。
増援はまだ来ない。一人で相手するには数が多すぎる。そんな時だ。
『陰陽五行の理が一時的に限定解除されました』
そんなメッセージが見えた。森羅万象の鑑定機能か何かか? ともかく、この状況での戦力増大はありがたい。
『森羅万象の実体化が可能になりました』
ついでにもう一つ謎のメッセージ。
居合斬りで騎士どもを牽制しつつ、なんとなく念じてみる。すると——
「ガァァァァーーッ!!」
黄金色をした東洋風の龍が俺を守るように現れた。もしかしなくとも森羅か……で、以前に夢で見たデフォルメ龍もお前か。前と今じゃ大違いだな。
森羅は一旦口を閉じて溜めの体制に入ったかと思うと、口から光線のようなものを放った。ブレスってヤツだな。標的になった騎士と背後の森が吹っ飛んだ。
「……さぁ、お互いに弔い合戦といこうじゃねぇか」
アルスターの騎士どもを生かして返す気は更々無い。




