魔王軍も割とだめだめっぽいぞ……
俺たちはルージオに飛竜を二匹借りうけて、スミストルへと急いだ。飛竜は賢くて、初心者な俺たちでも簡単に乗ることができた。
ただ現場から魔王城まで報せが届くまでの時間を考えると、間に合うかどうかは賭けのようなもの……と思いきや幸運なことに衝突は起こっていないらしい。
上空から見て取れたのは、にらみ合う魔王軍と義勇軍らしき一団。だが魔王軍に比べて、義勇軍は圧倒的に人数が少ない。
「——よっしゃ、ドンピシャ!」
人数が少ない理由はすぐ明らかになった。黒髪の年若そうな少年少女の集団——案の定、ウチのクラスの連中である。人数的にクラス全員揃ってるっぽい。魔族は魔物と違って人と殆ど姿が変わらないから攻めあぐねてるんだろう。同じ立場だったら俺だってそうなる。ただしアンデッド、テメーらは却下だ。
「これなら楽に説得できそうだ」
逆に魔王軍の説得の方が難しそうな予感がする……。ルージオの『即席邪神認定書』が効けばいいんだが。即席だけに不安ったらない。ちなみにルージオだが不測の事態に備えて魔王城に居残りである。最高責任者はそうそう前線には出ないものらしい。俺? 俺は正体バレしてないのでギリでセーフだ。
しばらく上空を旋回していたのだが、いざ地上へ降りようという時にもう一匹の飛竜に乗っていたシータが口を開いた。
「……私、気になることができましたので、別行動させていただいてもよろしいかしら?」
気になる事……? シータならそこらの冒険者より強いし、ちょっと何かを確かめるぐらいなら大丈夫か?
「いいけど、あんまり無茶はすんなよ。……俺も説得が終わったら行く」
こいつ時々無茶するから、なる早で用件を済ませよう。なんか嫌な予感がするし。
彼女の乗る飛竜が街の反対側へ向かうのを確認した後、俺も地上の魔王軍側へ降り立った。
のは良いんだが——
「そこの飛竜の騎手、所属と名を!」
当然そうなりますよねー。軍の魔族が数名、若干警戒しながら近寄ってきた。
「俺は冒険者のリュージ。身分はこの証書で確認してくれ!」
敵意はないですよーっと両手をあげて、ルージオから貰った証書をヒラヒラとさせる。……自分から邪神宣言する度胸は俺にはありませんでした。だって恥ずいじゃん。
身分確認が済んだら皆さんの態度が百八十度変わった。うん、わかってた。軍の兵士の中にはスミストルの人がいたので、比較的早く情報が広がったのもありがたかった。いつ戦端が開かれるか判ったもんじゃない状況、時間が節約できるならそれに越したことはない。
「邪神様は何故単身でこちらにお越しに?」
ルージオぉぉぉ、その辺も証書に書いとけよぉぉぉ! 今一歩気づかいが足りねぇぇ!
「……あー、その、いま相対している義勇軍は俺の友人たちでな。お前らと戦わせるわけにはいかないんだ」
なので説得に。と言うと、何故か「おお!」という歓喜の声が上がった。
「助かります! 見た目は年端もいかぬ者たちですが、皆歴戦の勇者の風格がありまして……我らもどうしたものかと」
お前らも困っとったんかい。
良かった……! 魔王軍がぽんこつで本当に良かった! トップがアレなだけに、魔王軍が戦闘狂の集団だったら、戦争が勃発してたぞ、コレ!
「——じゃ、俺はさっそくあいつらに話つけに行くんで」
「ご武運を!」
サァっと兵たちが左右に分かれて道を作ってくれた。おお、すげぇ。何か無駄に偉くなった気がする。




