先手必勝!って、和平する気ねーだろお前
ルージオとあーでもない、こーでもないと話していたら——
「邪神様ならびに魔王様、ご歓談中のところ申し訳ありません!」
伝令の兵士が慌てた様子で飛び込んできた。
「——何があった?」
静かに尋ねるルージオ。真面目モードだとちゃんとした魔王っぽい。普段は生真面目ボケ属性だってのに。
——なんて、他人事のように聞き流せたのは最初だけだった。
「スミストルの砦より、ジャックロットから人族の義勇軍らしき一団が出立したとの報告が!」
スミストルといえばこの魔国で俺たちが最初に辿り着いた街である。あの祭り好きな住人が沢山いる街、地味に最前線だったんだなー。
…………ってやべぇじゃん!? 軍が迫ってるって、和平どころじゃねーじゃん!
「——ジャックロットの人間か?」
「いえ、それが違うようです。掲げている旗がジャックロットのものではないので、その旗の国で編成されたものかと……」
伝令さんが戸惑うように告げるとルージオはため息をついた。それにしても、旗で国が識別できるとか便利だ。
「よくもまぁジャックロットが許したものだが、一体どんな旗だ?」
「杯を背景に二本の剣が交差したものになります」
「少なくとも隣接する国ではないな……」
ルージオもすべての国を熟知しているわけではないらしい。まぁ、鎖国状態だもんな魔国。
「——杯と交差した二本の剣であれば、それはアルスターでしょう」
聴きなれた声がしてそちらを向くとシータが部屋に入ってくるところだった。つーか、アルスターってあのアルスター? しかも義勇軍? 嫌な予感しかしない件。
「シータ様。アルスターとは?」
「今回、勇者を呼び出した国でしてよ。編成が黒髪黒目の少年少女で占められているのであれば、油断できない戦力です」
デスヨネー。あの国が魔国攻略に、ウチのクラスの連中を使わない手はないよなぁ。
「ならば精鋭を向かわせましょう」
ルージオ、おまっ、平和主義のくせにやられる前にやれの精神か!? いやまあ、国の長としては当然の判断なんだろうけどさー。このまま話を進められるとやばい。
「あー待て待て。もしシータの言うことが事実だったとしたら、そいつら俺の知り合い。怪我されると困る」
「なんと! ではどうすれば……」
「俺が説得する。話のわからない奴らじゃないし、嫌々従ってるんだろうからな」
こないだ教官の目を盗んで生産組連中と話した時とか愚痴の嵐だった。進んで協力してるやつは居ないと判明している。
もしクラスのやつじゃなくても、あんな国のために戦争に加担させられるとか哀れすぎるので説得する所存だ。義勇軍って事は本来なら一般市民のはずだからな。下手したらオルレットの顔見知りとかいるかもしれねぇ。
「そもそも人族と和平したいなら、絶対に義勇軍と衝突させちゃダメだろ」
その先にはドロ沼の戦争しかねーぞ?
俺がそう言うとルージオが今さらハッとした表情で呟いた。
「——言われてみれば、その通りですね!」
言われる前に気付けよこの脳筋魔王! おまえ本当に和平したいの? というか俺の知ってる『和平』の意味と、コイツの頭にある『和平』の意味、本当に一緒だよね!? 不安になってきたぞ……。
「まあいいや。急ぎでスミストルまで行く手段があれば、借りたいんだが……」
「では飛竜を用意いたしましょう!」
権力者は話が早くて助かるわー。ルージオの指示で、伝令さんが部屋から出て行った。
「それとリュージ様の身分を保証する証書を」
……あっ、そうだよな。
俺が邪神って知ってるのって、今のところスミストルの人と魔王城の人ぐらいだもんな。いきなり行っても話を聞いてもらえない可能性があったか!
ルージオがサラサラと羽根ペンを走らせ、何か呪文らしきものを唱えると、あっという間に出来上がった魔王謹製『即席邪神証明書』。
「確か、リュージ様方は冒険者ギルドにも登録されておられましたよね?」
「おう」
「ギルドカードと組み合わせれば証明ができるようになっております」
これを軍の上官にお見せください。と、それを渡された。つーか冒険者ギルドって、鎖国状態の魔国でも影響力があるのかよ! スゲェな!!
「ではリュージ様。この国の未来、お任せいたします」
やたらと神妙に頭を下げるルージオ。魔王にここまでさせたとあっちゃあ、失敗するわけにはいかねーな!




