移動手段は実験段階
「いい機会だから転送魔法陣の性能テストをしよう!」
魔族の国に行くことになったのだが、大きな問題が横たわっていた——国境である。数年前の魔王侵攻の影響で、隣国のジャックロット経由での通常ルートが使えない。……まぁ侵攻がなくても、一般人は魔族の国側には出られないようになってるらしいが。
普通じゃないルートは険しい山脈越え。うん、無理。現代っ子の体力の無さを舐めんなよ? 素人が自然の山脈越えとか無謀以外の何者でもない。
そこで飛び出したのがリトのこの案。転送魔法陣を使って魔族の国まで飛んでしまおう作戦。ただなぁ——
「失敗していきなり異世界とか勘弁だぞ」
「失敗して正反対の国へというのも勘弁していただきたいのですが……?」
「どうして失敗前提なんだい二人とも!!」
お前、自分の今までの行動を振り返ってみろ。どこに信頼できる要素があった? ソファに腰掛けて優雅に茶ぁ飲んでただけじゃねーか!!
「君らがいない時はちゃんと研究していたよ!」
そうかそうか。ちなみに身内のアリバイ証明は無効だからな
「君たちが持ち帰ってくれた例の資料のおかげで特定の転送ポイント以外にも飛ばせるようになったんだってば!」
うっわ、それ一歩間違えたら戦争の道具じゃん。やべぇコトに手を貸してしまった……。
「君の懸念ももっともだけれど、魔力を食うから、今は人を二、三人送るので精いっぱいだし、片道切符だから」
「でも精鋭二、三人送れれば十分じゃねぇ?」
「その程度で滅びるほど国っていうのは脆弱なものじゃないよ。あと今回の実験に関しては特例だ」
特例とな?
「君たちには是非、魔国の技術を持ち帰って欲しい。せっかく送るのだから私たちにも見返りをって訳さ」
「お前お得意のウィンウィンってやつか……」
その通り! と胸を張るリト。男に胸張られてもなー。ま、それなら多少は信用できるか。こいつ取引とかそういうのでは嘘とかつかないからな。本当のこと言わないだけで。
「そういうことなら行きの事は任せる。どうせ自分のためにも調べなきゃならねぇ事だしな」
俺は調べても活用できないが、リトなら活用できる。なら話は簡単だ。……ただ万が一、魔族の国で協力者が見つかったらどうなるかわからんけど。
「よし、それなら早速準備に入らせてもらうよ!」
そう言ってリトは地下室へと消えていった。
*
「……あれから三日は経つが、リトのやつ全く地下から出てくる気配無いな」
「ダンジョンからの脱出装置としての転送魔法陣とは桁が違いますもの。整備に手間取っているんでしょう」
シータからリトへのフォローが入るとは珍しい。軽いノリで決めてしまったが、実は今回の件って結構大事だったのか?
「それはそうでしょう。勇者よりも先に、それも魔王を倒すためでなく別の用事で魔国へ行こうというんですもの」
「平和的でいいじゃねーか。それに正直、殺伐としてんのは苦手なんだっつの。……極力、切った張ったにはしたくねぇ」
あ、幽霊とかスケルトンとかのアンデット系は別な? あいつらはもう死んでるから無問題。……あ、魔族の国がアンデットだらけだったらどうしよう。俺無双しちゃう?
「本当に貴方という人は……好戦的なのかそうで無いのか、分からないですわね」
「なんつーのかな。強くはなりたいが後味悪ィのは勘弁、みたいな」
「敵を倒す強さを欲するか、自らを高めるための強さを欲するか……という違いでしょうか」
貴方の場合位は後者のようですけれど。と、なんとなく嬉しそうに紅茶を飲むシータ。うむ、なんで嬉しそうなのか意味がわからん!
「——おや、面白そうな話をしているね」
噂をすればなんとやら。リトが地下室から帰ってきた! なんか煤けてる気がするが、どんだけ大変だったんだ整備。
「この世の中みんながみんなリュージ君のようなストイックな人間だったら良かったんだけどねぇ」
「いやいや、すといっくってほど突き詰めてねーから」
「それはともかく、お待たせして申し訳ない。いつでも出発できるよ!」
よっしゃー! 待ってろよ未知の国、魔国!!




