魔王って実際どんな感じなんだろう?
この国にやってきてひと月。ダンジョンに潜ったり草刈り——美味しくない仕事だと判っていてもやらないと調子が出ないのだ——したりで月日が流れるのが早い。
「ふと思ったんだが……魔王って何なんだろうな?」
「唐突ですわね」
いやまぁ、ゲーム的な魔王とかならわかるんだが、この世界における魔王っての? どんな奴かは知っておきたいなぁ、と。
「リュージ君にしては思慮深い事だね」
「ほっとけ!! つーか俺にしてはってどゆこと!?」
リトの野郎、最初から遠慮がなかったが最近は出会った頃にも増して遠慮がねぇ!
「魔王というのはその名の通り、魔族の国の王を指す名称だよ」
「まんまだな」
「まあ、しょうがないさ。国交がないからね、情報の入りようがないんだ」
ふーん鎖国してるのか。
「それが何で、いろんな国から目の敵にされてるんだ?」
流石に『鎖国してて得体が知れない連中だから』なんていうどうしようもない理由じゃないよな?
「魔族は少数民族なんだけど、絶大な魔力を持っているんだ。それに魔物を操ることができる者も多くいる」
「元は、魔族たちが強力な魔術や魔物を使って自分たちを攻めにくるのではないかという杞憂から始まった不毛な戦いでしてよ」
「へぇ、シータ君よく知っていたね。その辺の話はあまり残っていないはずなんだけど」
「そうなんですの? 私、普通に家庭教師から習いましたけれど……」
ダンマスが家庭教師から習ったって、どうなってんのアルスター王国のダンマス保護事情!? 気になる、気になるが話が逸れちまう。ここは我慢だ。
「……元はってコトは今は違うんだな?」
「昨今では本気で世界を支配しようという魔王が後を立たなくなったみたいでねぇ」
殺られる前に殺れの精神かよ!!
「それに対抗しての異世界勇者召喚か……つーかなんでこの世界で勇者探さねーんだよ」
いきなり拉致られる方の身にもなれよ。しかも片道切符とか。
「この世界の人間ではどうしても限界があってね。異界の素養がある人間を引っ張ってくるのが手っ取り早かったんだろうと思うよ」
「手っ取り早いって、おま」
「この世界にいるかも分からない職業勇者を探すよりは早いだろう?」
いやまー、言わんとするコトはわかる。わかるが身もフタもねー。もっと別方面で努力しろよ。職業診断できる神官増やすとか、鑑定の魔道具を作るとか!
……あ、そういえばステータス魔術使えば自分の職業判るんじゃ……?
「ステータス魔術か。……アレも地味に使い手を選ぶんだよねー」
「……まじで?」
「ああ。だから召喚魔術の陣にはステータス魔術が使えるようになる補助が付いてるんだ」
「そこまで至れり尽くせりで、なんで送還機能を忘れてるんだよお前らの先祖どもは……!」
「そこはまぁ、色々とね」
そこまで傍観していたシータが「一つよろしくて?」と声をあげた。
「過去より未来を見たほうが建設的だと思いますけど」
確かに。起きたことをウダウダ言ってても何にもならない。
「ところで現状、魔王の動きってのはどうなんだ?」
「何年か前に隣国のジャックロットに侵攻しかけたみたいだけど、それ以降は静かなものだよ」
「隣接してる国があるのか……」
「まあ山脈で隔てられているから、隣接しているといっても、そんなに意識するほどじゃないがね」
侵攻しかけたけど止めたってのが、ちょっと気になるな。魔族の国で何かあったんだろうか?
「んー」
なんか魔族の国に行ってみたくなってきたな。魔族の方が魔術に長けてるっていうんなら、もしかしたら召喚魔術の研究してるやついるかもしれねーし。
「リュージ君、どうしたんだい? いきなり考え込んだりして。……嫌な予感しかしないんだが?」
リトの野郎まじ失礼だな!? 俺が考え込むのがそんなに悪いか? お前の中の俺は脳筋って事か?
「よし決めた! 俺は魔族の国に行くぞ、リトぉぉ!!」
「なんだってぇー!?」
「あらまぁ」
秘密結社『魔術の友』本部に総帥の声が響き渡った。




