みっちりもっきゅもっきゅ
——さて、ボス戦だ。
「よっしゃあ! やってやんぜぇ!!」
アドレナリンめっちゃ出てるが、俺は正気だ。やっとメインで戦える嬉しさが先立ってるだけだ。魔断ち君様様である。もう長さが足りないと嘆くこともない!
「——と、思ってた時期が俺にもありました」
扉開けたら、みっちり骨——スケルトンが詰まってたのでそっ閉じした。リッチさんったら、臆病すぎるにも程があるんじゃないですかねぇ? 何なのあの護衛の数!
「問題ありませんわ。あのくらいでしたら私のスライムちゃんが、どうとでもできます」
「すげぇ、世界最強の吸引力!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
手持ちのモンスターを褒められて有頂天になるシータ。これ、もうスライム一匹でボス部屋制圧できるんじゃね? ……俺の活躍の場とは一体……ポッと出の新キャラに早々に食われた……?
「じゃあとりあえず、そのスライムをボス部屋に放り込んだら、扉閉めてしばらく様子見しよう」
「外道の所業!?」
何を言うか。これも立派な作戦だとも! 世界最強の吸引力をもってすれば中級ダンジョンのボス部屋くらいどうにかなるって!! けっして恨みからの犯行ではアリマセン。
「いえ、それはものの例えでして……」
「つってもなー。あのみっちり具合だと、それぐらいしないと肝心のリッチまで手が届かないぞ?」
地道に掃討してたら多分、俺たちの体力の方が先に尽きるだろう。あんなにみっちり詰まる程のスケルトンが生産されるまで放置状態って、どんだけ放置されてたんだここのボス部屋。
ここリトがオススメしてたダンジョンだったんだが、途端にきな臭くなってきたな。もしかして何か後始末的なものを押し付けられてる?
「じゃあ妥協案として、スライムを突撃させて道を作ってもらう。次に俺らも突入して最短でリッチをどうにかするというのはどうだろう?」
コボルト君ちゃんさんは邪魔が入らないように、後方で骨の相手をしてもらう、と。
昔なんかの漫画で読んだことがあるな。敵地に潜入するときには、前方と後方に強い味方を配置すべし! みたいなの。……この言い方だと俺が一番弱い奴になってしまうんだが今は置いておこう。いつ終わるともしれない骨の相手はゴメンだ。ほら、単純作業って眠くなるじゃん?
*
もっきゅもっきゅと骨どもを飲み込んで行くスライムさん、まじパネェ。溶かすのに少し時間がかかるらしく、ただでさえデカかった体が飲み込んだ骨のぶんまで増えてエライことになっている。俺たち押しつぶされたりしないよな?
ちなみにスライムさんは骨を飲み込みながらも前進しているので、一本の道が出来上がっていく。俺とシータはその道を悠々と進み、コボルトさん達が露払い。……うむ、完璧な布陣!
あれよあれよと言う間に一際異彩を放つローブ姿の骨の元に辿り着いた。って、こいつも骨なんかい!?
「——貴様らワシの研究結果を盗みにきたんか!? させんぞ、そんなことは!!」
——シャッベッタァァァ!?
だが、なんか勝手に思い込んで勝手に決めつけるボケたジジイみたいな言動をしているな。
「参考までに聞きたいんだが。じーさんよ、どんな研究してるんだ?」
「そりゃあもちろん——むむっ、危うく誘導尋問に引っかかるところじゃったわ!」
別に舌打ちとかしない。絶対に聞きたいってわけでもないから。
「まぁ、とりあえず倒させてもらうぜ、じーさん!」
恨むならダンマスになってしまった自分を恨むんだな! というわけでジジイの返事を待たずして俺は刀を抜き斬りかかった。だが——
「なんのぉ!」
ジジイが持っていた鉄の杖で応戦してきた。なんだと、接近戦もいけるのかこの魔術師系な骨!
「ぐぬぬ……魔術師系モンスターのくせにぃ」
「ぬぎぎ……これでも坊主の十倍は生きとるからのぅぅ」
なんか肉がついてたらいい笑顔してそうな感じのセリフが出たが、一言物申したい。
「骨の姿で生きてるとか言われても現実味が無ぇよ!」
一旦力を抜き刀を浮かせ、すかさず握る刀に一層力を込めてジジイの杖を叩き落とす。相手が魔術師系なのでギリで腕力勝負に勝てたようだ。あとは——刃を返して本体を斬り上げる。
真っ二つになりながら、ポカンとした顔をしていたジジイがポツリと呟いた。
「——あ、そうじゃった。ワシ骨じゃった」
それがジジイ最期の言葉であった。
……なんか憎めないじーさんだったなぁ。もっと違う出会い方をしたかったぜ。




