腕力が欲しい!
俺の血液が入った試験管を満足そうにうっとりと眺めるリト。異世界召喚魔術の研究が進むのが嬉しいんだろうが、ハタから見てると変態でしかないぞ。せっかくの美形が台無しだ。
「で、俺たちが急ぎでしなきゃならん事は特にないって事でいいのか?」
「——ん? ああ、そうだね」
「なら教えて欲しいことがあるんだが……」
私に分かることなら何でも。との言葉が返ってきたので遠慮なく聞いてみた。
「この国に草刈りの需要とかないか?」
あ、なんかシータが呆れた目で俺を見ている。しょうがないじゃないか! まだ剣術使えねぇから練習が必要なんだよ!!
「ギルドに行けばあるかもねぇ。研究者の家なんかは、普通にボウボウだろうし」
あー、ユニオールと同じパターンか。「そんなん手配してる暇があるなら研究進めるわ!」みたいな。
「ただ、相場は安いと思うよ。研究者は研究にはお金をかけるけれど、それ以外はからっきしだ」
……チッ。むしろ「草刈りに金出すくらいなら研究に金かけるわ」パターンかよ。世知辛いな。
「まぁ、この際それでもいい。刀の扱いの練習にはなるしな」
「どうして貴方はそこまで草刈りにこだわるんですの……」
「『庭師のリュージ』とまで言われて引き下がれなくなったんだよ! 悪いか!?」
あと、ひたすら同じ長さに整えていくあの作業……なんか無心になれる気がするんだ。そういう境地に至ったら強くなれそうな気が——しないですか、そうですか……。
「…………リュージったらどうしてこう明後日の方向に突っ走っちゃうのかしら」
せっかくのカタナも台無しですわ、ってそれを使いこなすための草刈りだっつーの!
「まあ、男には引き下がれない戦いもあるよね」
「リトに言われても胡散臭さしか感じねーよ!」
「手っ取り早くステータスを上げる薬がここにあるんだけど要るかい?」
そんなニュアンスからしてヤバイ代物に手ェなんぞ出すか!!
「つかなんで、ステータス不足が原因だと判った!?」
「スキルの使用可不可はステータスに依存することが多いからね」
ちなみに俺に足りないのは、相変わらず『ちから』である。中級ダンジョンでレベルが十五くらい上がって、ステータスも結構上がったんだが、『ちから』が伸び悩んでてなー。
森羅さんでスキルを調べてみたら、剣術を使うにはあとちょっと足りないらしい。『ちから』よ、何故貴様はいつも俺の前に立ちはだかるんだ!? え? 単に俺の腕力が足りないだけ?
「ぐぬ……」
あとちょっと……ちょっとくらいドーピングしても……。チラチラと視界を横切るリトの持つ薬瓶。それに手を伸ばしかけた刹那——
「——リト。切実な悩みを持つ若者で遊ぶのは大概にしてくださいな」
横からシータに薬瓶をかっさらわれた。そして彼女は蓋をあけると一息にそれを飲んだ。
「あら、意外と美味しい」
「ちょ、シータさぁぁん何してんのぉぉ!?」
「ただの果実水ですわよ、これ」
「へっ?」
半眼で俺に真実を告げる彼女。
「いやぁ、リュージ君は本当にからかい甲斐があって楽しいなぁ! そしてシータ君は肝が座っているね!」
もし毒だったらどうしていたんだい? とか意地の悪いことを言うリト。
「その時はリュージが即座に私の仇を討ってくれるはずですわ。そもそもここで毒を出す理由がありませんでしょう?」
「確かに。……出会ったばかりだと言うのにそこまで信用いただけて嬉しいよ」
えーっと、ところでステータスを上げる薬というのは……? あるの? それとも無いの? どっちなんだよ!?
「あったら良かったんだけどねー。今の所、ダンジョン産しか見つかっていないよ」
「そんな便利な物があれば噂くらいにはなってますわよ」
俺、悩み損ですか……




