やっぱヘンタイだったぁぁ!?
「ところで、俺たちはこの結社とやらで何をすればいいんだ? さっきは肉体派がどうとか言ってたが」
結社というからには魔術師がいっぱいいて魔術の研究とかしてるんだろうから、素人の俺たちが入っていっても邪魔なだけだ。
「まぁ、各地を巡っての情報や資料集めとかかな。何しろ魔術師メンバーは引きこもりが多くてね」
「……今までとあんまり変わらない件」
「はっはっは。まぁそう言わず頑張ってくれたまえ」
この野郎人ごとだと思って!
「——で、送還技術の解明は何処まで進んでいるんですの?」
シータの問いに「あ、やっぱりそれ聞くよねー?」という顔になったリト。
「……五割、と言ったところかな。異世界ともなると、座標の特定が殊の外難敵で参っているよ」
「転送魔法陣の応用なのですね」
「規模がまるで違うけれどね。ランダムなら飛ばせないこともないんだが……元の世界に帰せなければ意味がない」
あ、こいついいヤツだ。ちゃんと真剣に呼ばれた人のことを考えてくれてる。言動は軽薄だが、芯では真面目なヤツなんだな。
「せめて座標を特定できるような存在があれば良いんだけれど……」
チラッチラッとこっちに視線を向けるリト。『座標を特定する存在』? ……それはまさか——
「——喚ばれた本人、だったり?」
「その通り! いやー、リュージ君がアルスターの監視下から外れてくれて本当に助かったよ、本当に!」
あの国はガーディナーが異世界召喚術を研究しているのを知っているから、召喚者をこの国によこすの嫌がるんだよねーとか軽ーい調子で言いつつ、手をワキワキさせるリト。おい、一体俺に何する気だお前ぇぇーッ!?
「大丈夫。怖いことなど何もないからねー」
そう言ってにじり寄ってきてる時点で既に怖いわ! 身の危険を感じる。主に貞操的な意味で。
「ひっ、やめろ! それ以上近づくんじゃないっ!」
ついつい刀の柄に手が伸びる。防衛本能というやつだ。
「いやいや、痛いのは最初だけだよ。じきに慣れるさ」
「いーやー!!」
バシン、と二つの軽い打撃音とともに俺の頭に痛みが走った。何だ何だ!?
「何をふざけてますの貴方方は」
声の発生源——シータを見ると彼女がハリセンをしまい込むところだった。そんなものまで常備しているのか……ダンマス恐るべし!
だがな、一つ言いたい!
「失敬な、俺は真剣だったぞ!」
「私も普通にしていただけなんだが……」
つまり普通に行動しているだけで変態なんだなお前は。
「何か誤解が生じているようだけど、私が欲しいのはリュージ君の血液だよ」
それならそうとはじめに言えよ! 紛らわしい。
それはともかく魔術において血液は重要らしい。ギルドカードにも使われているように、個人情報の塊なんだそうだ。俺たちの世界でいう指紋とか網膜? みたいに同じものが一つとしてないくらいに。
「まぁ、一番確実で参考になるのは魂の情報なんだけど、流石に協力者の魂を引きずり出すなんて真似はできないし」
ウチは健全な結社だから一線を踏みこえることはしないんだと笑うリト。
「そもそも帰したくて研究しているのに、その本人を亡き者にしてしまっては意味がないよね?」
「……まぁ、そうだな」
「研究の過程で危険な目に遭うことはないんですの?」
「もちろん細心の注意ははらっているとも。それもあって研究が進みづらいというのもあるね」
研究が進んでいないのは、ここ数十年異世界召喚が表立って行われていないのもあるとのこと。基本的に魔王の行動が活発化してから行われるのが異世界召喚なので、平和な時期には研究自体が進まないんだそうだ。
今回のアルスターでの召喚は独断だったらしい。しかも他国への周知も無し。だから魔王の噂どころか勇者の噂も少ないのか。
「けど、異世界召喚ってそうポンポンとできるものなのか?」
それだといろんな国が好き勝手に勇者呼んでそうなもんだが……。
「いや? 召喚には膨大な地脈の力が必要だから、そう易々とは行えないよ。だからこそ勇者召喚は持ち回りで行われていたんだ」
順番的には今度はガーディナーの番で、召喚魔術研究者たちは期待に満ち溢れていたという。アルスターの独断先行に気付いた時には非難ごうごうだったらしい。……ホントロクなことしねーのなあの国。




