人型モンスターは意外と弱点が多い←弱点をつけるとは言ってない
ダンジョンのボスは牛の頭に人のような体つきをした魔物——一般的にミノタウロスと呼ばれる奴だった。ボスだけあってデカくて体長は二メートル以上はあるんじゃないか、これ。いかにも脳筋といった相手だが、だからこそその攻撃力はあなどれない。幾分か強化しているコボルト君ちゃんさんなら「痛い」で済むが、俺に当たったら普通にミンチだ。……怖ぇ怖ぇ。
さっさと気配遮断を使い、かつミノタウロスの攻撃射程から外れる。気配遮断は便利なんだが、広範囲攻撃を無効化するのは無理なので攻撃は自力で避けるしか無いのだ。巻き込まれ事故でミンチとか死んでもゴメンである。
その間、コボルト君ちゃんさんは見事なコンビネーションでミノタウロスを撹乱し、隙をみては攻撃している。シータが魔術で二匹の攻撃を強化しているので攻撃は通っているようだが、なかなかミノタウロスの勢いは減らない。
やっぱ俺も参加しないとダメでしょーか? ……ですよねー。こんなちっぽけなナイフの一撃でも急所を点ければ多少の足しにはなる。
さて、ではミノタウロスの急所は何処なのか。人と同じなら割と沢山あるんだろうが……。顔面系はアウトだな、リーチが短すぎて届かねぇ。首とか届けば割といい線行けそうだが。せめてコボルト君ちゃんさんくらい跳躍力があればなぁ。
心臓を一突きというのも難しそう。リーチがね……。肝心な時に使えねぇな、俺!! かろうじて行けそうなのが金的蹴りか、アキレス腱辺りを切りつけるくらいしか無いのが情けねー。やっぱ長さが足りないんだよ!!
「とぉりゃぁぁっ!!」
力一杯ナイフを振り抜きミノタウロスのアキレス腱を切りつけた。動きさえ止めれば後はコボルトさんたちがタコ殴りにしてくれるはず!
*
ボス部屋を抜けた先は小さな小部屋になっていた。そこの中心には宝箱がポツンと一つだけ置かれていた。
「どうみても罠だろこれ」
「ダンジョン攻略のご褒美じゃありませんこと?」
「いやいや、あからさますぎるだろいくら何でも!」
「ここは最下層ですから大丈夫ですわ。契約ダンジョンならそういう決まりがありますの」
「決まり?」
「ええ」
なんでも契約ダンジョンは人のための訓練場の意味合いもあるので、最終到達地点にはご褒美を置く決まりになっているそうだ。そのための物資も国から支給されるので、イレギュラーがない限りは守られているという。ちなみに中身はランダム。ダンマスですら指定できないというバクチ要素バリッバリの運ゲーである。まぁ、だからこそこの辺では取れない刀の材料が手に入ったりするわけだが。ちなみにその金属、レア度は☆五だそうです。ウルトラハイパーレアかよ!
「では、開けますわね」
「おう」
罠の心配がないのなら別に彼女が開けても大丈夫だろう。そして中に入っていたのは——
「杖ですわね」
「しかもなんか可愛いデザインだな。明らかに女物って感じだ」
黒くて木で作られたと思しき杖。丸みのあるデザインにリボンが巻かれているのが可愛いポイントといった所か。いかにも女子が持ってそうなデザインである。現にシータも何か言いたそうに俺を見ている。うん、みなまで言うな。わかる、わかるぞ。使いたいんだよな?
「俺は今回あんまり役に立たなかったからな。その杖はシータが使うといい」
俺がそう言うと、彼女の顔は花が咲いたようにパアッと輝いた。俺には使えないから、なんて野暮なことは言わねーぜ。
「あ、ありがとうございます! 大事にしますわねっ!」
まるでかけがえのない宝物を手に入れたかのように杖に頬ずりするシータさん。……そんなにソレ欲しかったん?




