やりくりって大変なんだね
俺が取り逃がしたゴブリンはコボルトさんたちのクリーンヒットで昇天したそうな。あの見た目で結構強いんだよなコボルト君ちゃんさん。さすが一国の騎士や兵士たちを相手にしてきた猛者たち。一方、その主人のシータは不満そうだった。
「余所様のダンジョンだと私のダンジョンの糧にできないのが残念ですわね……」
「そこはドロップのこん棒で我慢しとけよ」
「まぁ、いただきますけど」
彼女は自分のダンジョンコアをかざして、ゴブリンからドロップしたこん棒を収納する。ダンジョンマスター自身のレベルを上げるのは倒した魔物や物資をコアに吸収させるか、侵入者を倒して吸収するのが一般的らしい。シータは今まで国から提供された物しかコアに吸収させて無かったとかで、ダンマスとしては初心者らしいことが判明した。戦闘訓練用ダンジョンとして運用されていたというのも大きい。魔物強化には力を入れてたが、他はサッパリ。
知識はあるんだが、経験が不足してるって奴だ。……なんか俺と似てるなー。とはいえ戦闘指揮に関しては経験豊富、足りないのはあくまでダンマスとしての経験だ。……だから罠とかにも無警戒だったんだな。おかげで俺が被害を被るハメになったが。
「ふと思ったんだが……シータって罠見つけるの上手いよな? いっそのことそういう方面の技能を身につけたら役に立つんじゃないか?」
蛇の道は蛇というし、ダンジョンを作る方面でも攻略する方面でも役に立つんじゃなかろうか。というような事を説明してみた。
「そういう考え方もありますわね」
ふむ、とうなづくシータ。お、ちょっと乗り気?
「じゃあ、練習な。ちょっとでも気になった所があったら教えてくれ」
「触る前に、ですわね!」
うむ、ちゃんと覚えてるとは感心感心。
*
それからは驚くほどスムーズにダンジョン攻略は進んだ。シータのおかげで罠を回避出来るようになったからな。彼女は意外な事に、あからさまなものではない巧妙な罠も発見することができた。おかげで罠の回避がスムーズになり時間短縮に成功。ここのダンマスが地団駄踏んでるのが見えるようだぜ。
問題はモンスターの襲撃だったが、これも地味にレベルが上がったのか苦戦しなくなってきた。これなら近々、気配遮断を使わなくてもやりあえそうだ。やっぱ戦闘経験値は効率良いな。後味の良いもんじゃねぇけど。
そしてとうとう最下層の地下十階。俺たちの目の前には、ボス部屋の入り口と思しき扉がドンと構えている。
「ここのダンジョンはボス部屋が一つしか無いんだな」
「気をつけた方が良いかもしれません」
なんで?
神妙な顔で呟くシータに疑問の顔を向ける。彼女には何か思う所があるようだ。
「一体のボスに力を集中させている可能性があるんですの」
彼女が言うには、ダンマスはポイント方式でダンジョンの様々な施設や魔物を充実させているとのこと。限られたポイントをやりくりして各々ダンジョンを強化してるんだそうな。
ん? ということは、こういう事も考えられないか?
「単に罠にポイント使いすぎて、ボス置く余裕が無かっただけだったりして……」
俺の言葉にシータの目が見開かれた。「それな!」という顔をしている。
「思えばこのダンジョンの罠の数は異常でしたわ。リュージの言う通りかもしれません!」
道中のモンスターもあまり強い部類ではなかったし、このダンジョンは罠に特化しているのかもしれない。まあ、この考えが合っているかはまだ分からないので、警戒はすべきだろうが。
「よし、じゃあ扉を開けるぞ」
皆が武器を構えた。
——さあ、初めてのボス戦闘だ!




