草刈りは俺のライフワーク
ユニオールに来て早数日。俺は来る日も来る日も草を刈り続けていた。はて、俺は冒険者だったはずなんだが……?
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「……実はこの街、いま深刻な庭師不足なんです」
受付嬢が言うには、近隣のダンジョンのおかげで街が潤ったのは良いのだが、それが発端になって問題が発生したとのこと。
それが庭師不足。
資源豊富なダンジョンの資材求めて集まって来た職人の皆さん。そして同じくダンジョンの生み出す利益と、質の良い武具につられてやって来た大量の冒険者たち。彼らがこの街に居を構えるのは自然な流れだったという。
だが、彼ら。家を建てたのは良いが自分達でちゃんと手入れしない。職人たち曰く、「そんな暇あったら、少しでも沢山の質の良い武具を作りたい!」。冒険者たち曰く、「そんな暇あったらダンジョンでもっと稼ぐわー」。
結果、街の庭師さんたち受注多すぎでパンク。数年待ちとかザラらしい。おかげで放置された家々の外観がまるで廃墟のようになり景観も悪く、苦情が後を絶たないそうだ。人が住んでるので辛うじてセーフみたいなありさまなんだと。
あの分厚いファイルの三分の一くらいは草刈りらしい。しかも羽振りの良い冒険者や職人たちが依頼者なので、他の街よりも相場が高い依頼なのだとか。なんだその俺のためにあるようなご都合主義的な展開!
「お願いします! このファイルの分厚さと重さを少しでも軽減するために力を貸してください!!」
そっちかよ!
いやまあ、ファイルの重さが仕事に支障を与えてるのはわかるが。紙の詰まったファイルの重さは半端ねーもんな。腕力鍛えるのにちょうど良いもんな。
「——わかった。その依頼受けよう!」
「ありがとうございます!」
抱きつかんばかりに喜ぶ受付嬢とは裏腹に、シータさんのジト目が痛かったです。ちゃうねん、女の子に喜ばれたくて受けたのとちゃうねん。オルレットで付けられた『草刈りのリュージ』の二つ名が疼いただけなんです。だからシータ、その呆れたモノを見る冷たい目はやめて!
*
そんな事があって今がある訳だが……。オイシイ、草刈りまじオイシイ。午前と午後で二軒回って草刈りするだけで銀貨五枚とか美味しすぎるだろ! しかもオルレットと違って都会だから、極端に広い庭とか無くて下手したら一日に三軒か四軒回れる日もある。
ちなみにこの世界で一人ひと月辺りの平均的な生活費は銀貨十枚程。俺が美味い美味い言ってる理由、お判りいただけただろう。
「俺、このまま草刈り長者になってしまうかもしれん……」
「貴方、本来の目的を見失ってませんこと?」
うをっ!? シータいつの間に俺の背後に!?
だが、俺は平静を装う。
「目的? この街の雑草を全て刈り尽くす事だが?」
あとは初心者向け依頼のコンプとか。俺が口を開く毎にシータの顔がだんだん険しくなってゆく。
「異世界に戻る方法はもう要らないんですの?」
「そっちか!」
「一体何と勘違いしてらしたの!」
「いや、目下の目標の話だとばかり……」
何事も地道にコツコツとってじーちゃんも言ってたし、生活費と旅費は稼げる時に稼いでた方が良いというか……。
「そういえば俺が草刈りしてる間、シータは何してるんだ?」
「もちろん他の依頼をこなしたり、情報収集などしてますわ」
おお、あのおつかいすら失敗していたシータさんが、いつの間にかとても頼もしくなっている!
「……なんですの? その、微笑ましいものを見る目は」
「いやさ、あのシータが立派になったもんだなぁ、と」
「保護者みたいな事を言うのはやめてくださいな。私と貴方はあくまでも対等の関係ですわよ」
「……むぅ、それはすまんかった」
驚異の成長速度だ。その内、俺の方が保護されてしまう……って。俺、現時点で保護されてねぇ? 収入こそ入るようになったが、まだ彼女の家——ダンジョン——に世話になってるし。
まずい、これはまずい。早急に何とかせねば!




