閑話・賢者さんの場合
私は甲斐千里。とある高校で教師をしていたのですが、異世界召喚? という不可思議な現象に教え子共々巻き込まれて、今は賢者をしています。
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神山君が亡くなった、という衝撃の情報が駆け巡ってから早数日。
早乙女くんが密かにクラスの子達に流した神山君生存説のおかげで、混乱も収まりつつあります。占星術士の長谷部さん太鼓押しならまず間違いはないでしょう。少しホッとしました。
私としては、ダンジョンが同時に消滅したのも気になる所です。神山君の件とは無関係なのでしょうか? この国の偉い方々が彼を疎んでいたのは明白。ダンジョンと道連れにした……なんていうのは考えすぎかしら……。
王国側は、初のダンジョン訓練で不測の事態——高レベルモンスターが現れた件——が起こった事、犠牲者が出たことに形だけの謝罪をする事で、この件を終わった事としました。
このことに一番憤慨したのはもちろん私たちです。自分たちの都合で無理やり呼び出しておいて、たかだか職業の違いでこんな雑な扱いをするなんて言語道断です! ……でも、残念なことに今の私たちでは、この世界で生きていく術がありません。
だから私たちは神山君が生きていると信じて、いつかこの国に反旗を翻せるよう力を蓄えています。
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「センセー、また図書室いくの?」
あら、新名さん。こんな所で会うのは珍しいですね。
聖女と言う職業を押し付けられてしまった彼女は、行儀作法やら言葉遣いなど堅苦しい物まで押し付けられてしまい自由な時間があまり無いと嘆いていましたが……。
「ええ。私は先生ですから、いざという時のために知識を溜め込まなくっちゃ」
「センセーやる気だね。私も頑張らなくっちゃ!」
「無理は厳禁ですからね? ただでさえ新名さんは他の人より負担が大きいんですから」
「……でも何処ともわからない場所を彷徨ってそうな神山に比べれば、ここの暮らしなんて温室みたいなモノですよ」
神山君、今頃どうしているのでしょうか……? 長谷部さんは神山君を『殺しても死なない星の持ち主』と称したそうですが、心配なものは心配です。モンスターに齧られたりしていないと良いのだけど……。
「じゃ、センセーまた後でねー」
「はい」
新名さんと別れて図書室に到着。司書さんの話では、結構な頻度で神山君が通っていたそうです。……文字が読めないと言っていたはずですが、かなりの冊数を読破していたとのこと。もしかしてわざと読めない振りをしていたのかしら……。内容は様々でサバイバルに役立ちそうなものが主だったみたい。仮にも賢者なんていう職業を名乗っているのだから、私も負けていられません!
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最初の頃は主にこの国についてしらべていました。
国名はアルスター。古い時代から残っている数少ない国で、勇者召喚術の残っている貴重な国でもあるとか。その優位性から他国に攻められる事なく今まで残ることが出来たそうです。
上層部の方々が職業至上主義になってしまったのは、たぶん勇者召喚術に胡座をかいたせいでしょうね、きっと。……まともな人が王位を簒奪とかしてくれないかしら。
ついでに近隣諸国もみてみると、ユニオールという国名が。この国は幾つかの小国が集まって最近成立した国だそう。最近、と言っても建国から軽く百年は経っているみたいなので、この世界のスケール感の桁違いさが実感できてしまいます。
ユニオールはアルスターと違い、人種や職業で差別されるような事はないみたい。元々、考え方の違う国々がまとまったようなものだからかもしれません。国風はおおらかで来るもの拒まず去る者追わず。……どうせ召喚されるならユニオールのほうが良かった。
野生? のダンジョンが多いことでも有名なのだとか。そのおかげか資材が豊富で生産職の方々が集まる国でもあるそうです。
今度、生産職の子達が修行で行くのだけど、私も行きたいです。でも賢者は生産職じゃ無いからって断られちゃいました……。




