せんとうけいけんはかいむです
「ソロンさんまじビフォアアフターだったなー」
「野生のオークがあそこまで牧歌的になるなんて、リュージのセンスには驚かせられましたわ」
おうおう、褒めろや褒めろ! ……まあ実際は服屋の異常な品揃えのお陰なんだが、選んだのは俺だし? 実質俺の手柄でいいよな!
話題の渦中であるソロンさんとは既に別れている。ただまあギルドのおばちゃんにこっそり推薦しといたから、あの人がこの街を出るのは別の意味で難しいんじゃないかねー。おばちゃんあれで凄腕っぽいし、話した時すげー興味深々だったもんよ。高レベルの旅人は珍しいんだと。教え上手とくれば更に珍しい。街の冒険者の質向上にはとても貢献できる事だろう。
さーて、それはともかく。
「もうそろそろ実戦を経験しときたい所だな」
ギルド酒場で昼食後のお茶しつつ今後の方針会議。午前はソロンさんの一件で潰れちまったからなー。今からだと時間的にお使いクエスト受けるのも微妙だったりする。今日はオフだオフ。幸い今までの稼ぎもあるしバチは当たらんだろ。
「そういえばリュージ。ダンジョンでは全く活躍してませんでしたものね」
「……あの面子と肩を並べろと仰るか、お嬢様よ」
無理だよ! 俺が手を出す以前に瞬殺だったジャン! ただの旅人にムチャ言うのヤメテ!! ……本当は神様だが、一般人よりも非力な神なのであんま変わらない……どころか旅人よりもヒドイ結果になる件。神様って何なんだ。
「……そうでしたわね。あの上級戦闘職集団と比べるのは酷な事でした」
悔しくなんて無いんだからなっ。あれだけ差があると開き直るのが楽でいいわー。
「そういうシータ自身は戦闘経験あるのか?」
「ありませんね。指示出しくらいならありますけれど……」
だがまあ魔物使いなら十分に実戦経験の範囲内か。問題は俺だよな……。旅立ってから初戦闘でパニクって最悪な展開になるくらいなら、街に滞在してる間に経験しといたほうがいいに決まってる。
「——というわけで。おばちゃん、討伐クエストの解禁はよ」
「リュー坊、あんたって子は本当にせっかちさんだねえ……」
物には順序ってものがあるんだよとため息をつくおばちゃん。コップを拭く手がとまる。
「採取依頼を解禁したばかりだろう? それに探索の時に、なにかしら小物と遭遇したりはしなかったのかい?」
そういえば地味にオーク——もといソロンさん以外とは遭遇してねーな。この街に来る前も遭遇しなかったから、普通にこの世界のエンカウント率が低いんだと思ってたが……。
「その年になるまで魔物と遭遇したことがないなんて、随分と幸運な星の元に生まれたんだねえ……」
いや、交戦経験がないだけで遭遇経験はあるんだぞ、おばちゃんよ。主にシータのダンジョンでだけど。さっきも話してたけど、勇者パーティーが瞬殺してたから、俺までお鉢が回って来なかったんだよ!
「遭遇した事はあるんだよ! ……交戦経験が無いだけで」
「何にせよ恵まれてたって事に変わりはないだろう?」
「……デスヨネー」
まさか魔物とかいない別の世界から最近来たとは言えず。これ『人里離れた山奥で育った』とかの言い訳も苦しいよな。俺自身の非力さが説得力を殺しにかかってるし……山育ちで非力とかあり得ねーよ。
……かといって、おぼっちゃまってガラではないんだよなあ。今後のために整合性の取れた言い訳を考えておく必要がありそうだ。
「……まぁ、いいさ。シータちゃんも付いてる事だし、討伐依頼も解禁したげるよ」
「よっしゃぁぁぁ!」
なぜここでシータの名前が出るのか意味がわからないが、結果オーライ! 討伐依頼解禁ともなれば、いよいよ俺も本格的に冒険者デビューだぜ!




