おばちゃーん、登録頼むわー
手近な第一街人に場所を聞いてやって来ました異世界ハローワークもとい冒険者ギルド。外観は木造二階建てのいたって普通の建物だ。まあ、でかい街の支部ってワケでもないから、このくらいが丁度いい塩梅だとは思う。あんまりデカ過ぎても入るのに躊躇しちまうだろうしな。
「ここが冒険者ギルドですのね。……あまりパッとしない外観ですが」
お嬢様暮らしだったお前からしたら、そりゃあ大抵の建物はパッとしないだろーよ。とは言わない。俺は優しいので。
「とりあえず入ってみようぜ」
*
ギルドの中は、よくファンタジーマンガなんかで描かれるような酒場そのものだった。ここでギルドの皆さんはその日の稼ぎを絞り取られる訳ですね、わかります。時間が時間なので人はそう多くない。トラブルの種が少ないのは良いことである。
俺達はカウンターに向かい、そこでキュッキュッとコップを吹いていた年配の女性——おばちゃんに声をかけた。
「すいませーん、ギルドに登録したいんですが」
「登録かい? ちょいと待っといておくれよ」
よくあることなのか、おばちゃんは慣れた手付きで準備をしていく。俺には用途の判らない器具が着々とカウンターの上にならんでいく。その視線に気付いたおばちゃんが苦笑い。
「珍しいかい? これはギルドカードを作る魔道具さね」
ギルドカードとは、倒した魔物のデータ収集から本人証明の機能なども併せ持つ『はいぶりっど』なアイテムらしく、作るのにも専用の機材が要るんだそうだ。
…………もしかしなくても発行手数料要る系ではなかろうか?
「あのー……俺ら今、持ち合わせがないんスけど……?」
というセリフにおばちゃんは一瞬キョトンとした。……まあ俺はともかく、シータとかは金持ってそうな格好してるから、当然っちゃ当然だ。
「ああ、それなら安心しなよ。分割払いもできるからね。依頼をこなして少しずつ返して行けば良いのさ」
ちなみに料金は一枚につき銀貨五枚、二枚で銀貨十枚。日本円にすると約一万円と、ソコソコお高い。でもそれでこの高機能な身分証明書が手に入るなら安いものだ。……ただ、完済するまではこの街から離れられないのが難ではある。まあギルド側からしたら持ち逃げとかされたら目も当てられないもんなー……。そんなやり取りをしているうちに準備が整った。
「じゃあ、先ずは名前から聞いていこうか」
「俺がリュージで、彼女はシータっす」
おばちゃんは俺たちの名前を復唱しつつ、機械に打ち込んでいく。魔道具つったらファンタジー感バリバリだけど、やってる事はパソコンの入力作業みたいだな……。
「希望の職種とかあるかい?」
「俺は旅人で」
「私は魔物使いですわ」
各々先に決めていた——俺の場合は診断されたやつだが——職業をつげる。シータはてっきり魔術職かと思ってたんだが、そっちか。多分、ダンジョンの魔物を呼び出して戦うとかするんだろう。マジで便利だなダンマス。
「旅人を選ぶとは年に見合わず落ち着いてるねぇ。普通、あんたくらいの歳なら戦士系を選ぶもんだけど」
選べるものなら選びたかったさコンチクショー! ナイフしか持てない戦士職とか説得力皆無だっつーの!!
「は……はは。ナイフより重いもの、持てないんすよ……俺……」
俺の乾いた笑いで察してくれたのか、おばちゃんはそれ以上この話題について言及することはなかった。
「——じゃあ、最後だ。このカードの宝石部分に血を一滴垂らしておくれ」
そうして差し出されたのは、クレカなんかと同じくらいのサイズの謎金属製カードだった。おばちゃんのいうとおり、丸い透明な宝石が埋まっている。
それにしても血を一滴垂らしてくれ、と言われたものの、どうすりゃいいんだ? マンガとか小説なら親指を簡単に噛み切ったりするんだろうが、実際は難しい。シータもちょっと戸惑っている。
おばちゃんが苦笑いしながら、裁縫用の針を二本貸してくれた。有り難く頂戴して、チャレンジ。
ぽたり。と宝石に落ちた血はみるみるうちに吸い込まれていく。そして——カッ!!
宝石がまばゆい光を放った! メッチャ眩しい!
「うわっ!?」
「きゃっ」
「わわっ!?」
光は割とすぐに収まったのだが、直視していたせいで目がチカチカする……。
「今のは普通に起こる現象ですの……?」
「……いや。あたしも長年この仕事してるが、ここまで激しい反応は初めてさね」
試しにシータがやったら普通にキラリと光っただけだった件。
こりゃどう考えても『ストレンジャー』が原因ですね、わかります。おまっ、こう言う時はちょっとは自重しろよ! あと普段はもうちょっと存在を主張してくれ! 俺にもう少しラクさせてくれよ!!




