お金が……無い!
生きるのに必要な物は何か? 衣・食・住? それも大事だが、それを整える為に必要な物がある。
——ずばり、金だ!!
俺たちには現在、圧倒的に金が足りない!
*
四日間の森暮らしと一日の旅を終えて俺たちがやって来たのは、オルレットという街だ。……これでようやく迷子から脱却だ! しかも運良く国境方面への通り道。運が向いて来たぞ!
だが意気揚々と服屋に入ってから、はたと気がついた。
「数日の城アンド森暮らしで、世の中が貨幣経済だったのをすっかり忘れてたぜ……」
どっちも何だかんだいって、至れり尽くせりだったからな……。金とか一銭も持ってねえよ。これじゃあ服を新調するどころじゃない。
シータも金までは持っていなかった。まあダンマスに金とか必要無いもんな。そして彼女も国の保護下だったので、必要な物は現物支給だったという。さらに言うなら国の兵士訓練用ダンジョンだったため、冒険者が入る事もなく脱落者の装備・持ち物剥ぎ取りなんかも経験が無いそうだ。その点はちょっとホッとしてしまった。なんでか知らんけど。
「狩りで稼ごうにも、そもそも獲物が居ませんでしたものね……」
そう、人の気配に敏感なのか森では他の生物に全く遭わなかったのだ。まあ、出遭ってしまっていたとしても狩れていたかはわからない。何しろ二人とも狩りは初心者だ。
狩りでの金策に関しては最終手段——シータのダンジョンで乱獲という方法——があるのだが、男としてそれは避けたい。ただでさえ世話になっているのに、これ以上頼ったらマジでヒモ一直線だ。せめて自分の物くらいは、自分で稼いだ金で揃えたい。
「金策かー。どっかに割りのいいバイトとか転がってねーかなー……」
「バイトとやらが何かは存じませんが、冒険者ギルドに登録してみるのはどうでしょう?」
仕事が見つかるかもよ、とオススメされた。そういえばこの世界にはそんなのもあったな。日本で言うならハローワークみたいなのが。あっちよりも断然シビアではあるが。……伊達や酔狂で図書室通いしてた訳じゃねーぞ。
「ま、どうせ身分証明とかも用意しなきゃならんし、そうするか」
国境超えには身分証明になるものが必要なのだが、冒険者ギルド所属ならフリーパスなのだ。ギルドを作ってくれた先達には感謝しかない。
「本来なら冒険者を迎え撃つ側の私が冒険者とは、面白いですわ」
貴方について来て良かった! と、シータが呟いた。まあ、俺の『森羅万象』が変に作用しなかったら一生あのダンジョンで国に保護されつつダンマスしてたんだろうし。外の世界を新鮮に感じてるんだろう。
……しっかしまあ皮肉っちゃあ皮肉だよな。下手したらダンマスなのにダンジョン攻略とかする訳だろ? 冒険者登録に職業診断が無いからこそできる所業である。
実は平民の間では職業への偏見が少ない。こだわってんのは貴族連中みたいなプライドの塊な奴らだけだ。診断できる神官の数が少ないのもあるんだが、そもそも職業が判らないから偏見の持ちようがないという説もある。それでもダンマスはヤバイんだが……普通にモンスターの一種とされてるからなぁ。
「まあ基本、お前がダンマスってのは秘密な。バレたらどうなるかわかったもんじゃない」
バレたら最悪、追っ手がかかりかねない。野生のダンマスはモンスター以下略だからな。幸いシータは世にも珍しい人間のダンマスだから、よっぽどヘマしない限りは大丈夫だと思う。
なんでシータの種族が判るかって? 森羅万象さんのアフターケアは万全だったって話だ。俺の有罪が確定した瞬間でもあったワケだが。
「……わかってますわよ」
ぷうっと不満げに頰を膨らませるシータ。ちょっとカワイイな……。




