閑話・勇者くんの場合
おっすオレ、早乙女祐一。某高校の二年五組の一員だ。突然だけど異世界に召喚されて勇者にされた件ェ……。
*
甲斐先生の授業中に突然床が光ったかと思ったら、次の瞬間には別の部屋にいた。何を言ってるかわからないと思うが、オレも訳がわからない。もちろんクラスのみんなも目を白黒させていた。甲斐先生の手からポロリとチョークが落ちる音がやけに響いた。
そんな時だ。
「異世界より来りし戦士たちよ!」
やけに偉そうな声が部屋に響いた。いきなりの事だったのと、暗くてよく分からなかったけど、目が慣れて来てビックリした。全身鎧の集団に囲まれてたんだよ、オレたち!
その中に混じってた昔の王サマっぽい、でもシュミの悪さが滲み出た格好したおっさんが声のヌシだった。その隣にはケバい格好の姫っぽい子がいた。変に飾り立てない方が可愛い系の姫だ……オレの趣味じゃねーけど。
オレはもっと控えめな娘のほうが好きだな、うん。
「そなた達を呼び寄せたのは他でも無い。魔王を倒せ! さすれば元の世界に返してやる!」
うっわ、やっぱシュミ悪いわー。人にモノを頼む態度じゃねぇぇー! ……ていうか、これ異世界召喚ってヤツじゃね? マンガとかでよくあるやつ。しかもダメなパターンのやつ。
「では早速、お前達の職業を調べる事としよう!」
王サマ(仮)の合図で動き出した全身鎧たちに追い込まれて、強制的に移動が始まった。ちっとは心の準備というものをさせてほしい。でも全身鎧が無言で威嚇してくるのでみんなも仕方なく誘導されていく。だって迫力がすげーのなんのって! リアル兵士やばい! ……あ、もしかして兵士じゃなくて騎士っすか?
*
たどり着いた部屋の奥には、某竜の冒険RPGに出てくる僧侶みたいな格好をした神官? が待機してた。
あのおっさんが職業の診断をするらしい。
順番に並ばせられて次々と診断されていく。なんか有名ドコロな職業が連発されてて、ありがたみがないにもほどがあるなー。——って新名が聖女? ないわー。石田は聖騎士か。甲斐先生が賢者とか配役ピッタリじゃん。てな感じで待ってたら、あっという間にオレの番が来た。
「まずはお名前をお聞きしても?」
神官のおっさんは、この世界で遭遇した中では一番丁寧で良い人そうだった。
「祐一っす。早乙女祐一」
「ユーイチ様ですね。では——」
なんかムニムニーっと呪文を唱えたおっさんは、驚きで目を見開いた。え、なんかめっちゃキモいんですけど?
「——ユーイチ様の職業は『勇者』です!」
おおおーっと歓声があがった。
でもこの世界で勇者って……どう考えても貧乏クジだよなぁ。あんまし嬉しくない。呼ばれるならもっと腰の低い王サマと控えめな姫のいる世界が良かった。……この世界だとハニートラップとかされそうで怖ぇ。
*
そしていよいよ最後の診断がやってきた。神山か……いまいち何の職業になるか想像つかない。あいつ、ちょっと変わってる所あるからなー。
「リュージ様の職業はストレンジャーです」
すとれんじゃー?
なんかよく分からんけど、カッコイイ響きだ! 神官のおっさんの解説だと『旅人』って意味らしい。つーかそれなら最初から旅人って言っとけばいいのに、まだるっこしいな。
それを聞いた瞬間に王サマたちのテンションが明らかに下がっていた。えー、カッコイイじゃんストレンジャー。なんか自由そうでイイ!
クラスのみんなも同じことを思ったのか神山を羨ましそうに見てる。だよな、下手にいい職業を引き当てたら、こき使われるのが目に見えてるもんな。オレとかオレとかオレとか。だってオレ勇者だもんよ。魔王が相手なら絶対に一番こき使われるだろ?
いいなぁ神山。水先案内人みたいな職業で。
*
神山が死んだ、らしい。信じられない。
初めてのダンジョン攻略中の事だった。明らかにレベルが違いすぎる魔物の襲撃で逃げ遅れたのだ。その後、間を置かずにダンジョンも消滅してしまい、事実確認すら出来ない状況だ。騎士団長が言うには、とっくの昔にダンジョンに吸収されて、ダンジョンと一緒に消滅しているとか抜かしている。
だが、オレは信じている。あの神山の事だ「よう、どーしたよ?」とか言いながらひょっこり姿を現しそうな気がメッチャする。あいつ、なんてーの? 殺しても死なない感がすごいんだよな。何があっても生き延びる、みたいな。実際、ハブられてた間も自主トレとか勉強とかしてたみたいだし。学校通ってる時はそんなに自主的に勉強とかするやつじゃなかったクセにな!
何となく占星術師の長谷部に聞いてみたところ……。
「神山の星? 今もヤバイくらいに輝いてるわよ。普通に生き延びてるでしょ、これ」
しかも彼女が言うには、やっぱ殺しても死なないくらいには強い星の持ち主らしい。すごいな神山。
だからとりあえず、また会う日までオレももっと頑張るとするよ。絶対に犠牲者とか出さないくらいに強くなってやる!




