旅人、ダンマスと出会う。
「さーて、今の俺にも理解できるような仕組みだと良いんだが……」
明らかに操作盤っぽい台座を見つけたので、嵌め込まれた宝玉に向かって森羅万象さんを発動。うむうむ、フロア移動なら問題なし。出口設定も問題なしときた。思ったよりも簡単に脱出できそうである。
ただ、スキル発動中になんか「きゃっ」とか「はわわっ」とか女子っぽい声が聞こえた気がしたが……多分気のせいだろう。ダンジョンに性別がある訳ねーし。
「まずは何処に向かうかねー」
目下の目標は、戦闘スキルである『剣術』を実戦レベルで使えるようにするってとこだな。足手まといのままじゃあいられない。せめて自衛くらいは出来るようにならなければ。
それにしても目的地、目的地か——……あ。
考え事をしながらだったため、うっかり操作ミス。操作盤の周りの床が光り出した。転移が始まったのだ。よりにもよって出口指定でミスってしまった!
「やっべー、やっちまった!」
片手で顔を覆うも、取り消し出来ない段階まで進んでしまっている。願わくば厄介な者たち——例えば、先ほどの刺客たちや、騎士団長の同行しているクラスメイト一団とか——と遭遇しない場所であれば良いのだが——
*
「——ようこそ、私のダンジョン最奥へ」
俺を待っていたのは、クラスの友人でも刺客でもない。だが現状ではある意味、何よりも厄介な相手だった。その人物は腰に手を当てどどんと仁王立ちして、こう告げた。
「私、このダンジョンのダンジョンマスターをしております」
金髪縦ロールでドレス姿の、いかにもなお嬢様に見える俺と同じくらいの年頃の少女。ダンジョンにはどう見ても不似合いな彼女は、このダンジョンを統括する存在、つまりダンマスなのだという。そしてダンマスがここに居るという事は——
「……いや、少なくとも最奥に行く設定にはなってなかったはずだ」
しかもこの部屋すげー豪華でダンジョンの中とは思えないんだが……。え? ダンマスのプライベートルーム? さようですか……。
「それに関しては割り込みをかけさせていただきました。貴方にはどうしても言いたい事がありましたので!」
何故かダンマスはめっちゃ怒っていた。意味がわからない。
「貴方のスキルで私……丸裸にされてしまいましたの!!」
年頃の女性にあんな事しておいてタダで帰れるとは思っていないな? という無言の圧力を感じる。
それにしても、俺のスキルでダンマスに影響が有りそうなのって……。
「…………もしかして『森羅万象』?」
「スキルの名前までは存じませんが、貴方がそうと思うのであればそれが原因でしょうね」
「……はぁ」
納得いかねー。俺が調べたのはあくまで転移装置の使い方であって、ダンマスの個人プロフィールじゃねーし!
「俺が調べたのはあくまでも仕掛けであってあんたの事とか微塵も——」
ドン。
ダンマスが足踏みをした途端、大揺れするダンジョン。言い訳するなと言いたいようだ。
「ともかく! ……あんな恥辱後にも先にも有りません。ですので——私を傷物にした責任取ってくださいな!」
「えー。俺、心に決めた人いるし無理。それに傷物とか酷い言いがかりだろ」
ちなみに心に決めた人がいるというのはウソである。俺はそこまでリア充じゃない。こう言えば諦めてくれると思ったんだが……。
「こうなったら、色よい返事が貰えるまでついて行ってやりますわ!」
彼女に火を付けてしまったらしい。っつーか……。
「……え? ダンマスってダンジョン外の移動とかできるのか?」
「ダンジョンコアさえあればそこが私のダンジョンなのです!」
エヘンと大きな胸を張るダンマス。意外と可愛いかもしれない。
「はぁ……ま、いいか。とりあえず——」
名前を問う。さすがにいつまでもダンマス呼びはヤバい気がしたのだ。
「シータですわ」
「……なんか空から降ってきそうな名前だな」
「意味がわからないんですが……?」
当然と言えば当然の反応だがちょい寂しい……。
「こっちの話だよ。んで、これからどーするよ?」
問われたシータは首を傾げた。そりゃそーだよな。シータは付いて来る側だ。だが、俺には行く当てがない。ならいっそのこと彼女に決めてもらおうという訳だ。
「あ、ちなみに国外ダッシュは必須な! 許可とか貰ってねーけど」
「ええええ!? いきなり密入国ですの!?」
「目標は異世界送還術の発見だ!」
「王家以外にあるなんて聞いたこともありませんわよ、そんなの!!」
「マジで?」
「マジですわ。それより——貴方の名前、まだ聞いてませんわ」
あ、言われてみればそうだな。
「——俺は龍司。神山龍司だ」
——こうして、俺とシータのデコボココンビが誕生したのだった。
一章・完
しばらく充電期間をいただきます。二章がある程度書き溜められたらまた毎日更新しますのでよろしくお願いいたします!




